一向に収束する気配のない新型コロナウイルスの影響で、徹底した感染予防対策に神経をすり減らしているホテル業界。これまで宿泊客に好評だった館内施設やサービスも次々と利用中止やプラン変更を余儀なくされているが、苦肉の策が思わぬ人気になっているケースもある。ホテル評論家の瀧澤信秋氏が、コロナ禍で知恵を絞るホテルの現場をレポートする。
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オリンピックも延期され、コロナ一色だったと歴史の教科書で後世に語り継がれるであろう2020年──。そして、年が明けても再び自粛生活を強いられるなど、コロナ禍はじつに多くのモノやコトを社会から失わせた。ホテルもまた然り。様々なサービスがなくなり変容していることは多くの利用者が実感していることだろう。
宿泊施設の供食という点でみると、多くのホテルで「ブッフェ」が中止に追い込まれた。ブッフェといえば、多数の宿泊客がひとつのトレイやトング等を共有して料理をピックアップする。直接手に触れる器具だけではなく、咳やくしゃみ、会話などが原因で飛沫が料理へという可能性も想定すると、中止の動きは当然の流れだった。
ブッフェに代わったのが定食による提供だ。定食とはいえご飯や汁椀はお代わりできるホテルは多くあったが、定食だけにおかず類は“1回だけ”であり、好きな料理を好きなだけピックアップできるブッフェ時と同料金という施設では苦情も出たという。気持ちは分からなくもないが、筆者個人としては定食になったことで、食事や料理を見直すきっかけにもなった。
もっと若い頃だったらブッフェで何回もお代わりしていたという年齢的な面も大きいが、それ以上に少しずつ盛られた料理に感心したシーンも多々あった。とあるホテルで定食メニューをよく見ると、ブッフェの際に提供されていたメニューと同じ料理が小皿や小鉢へキレイに盛り付けられている。ブッフェ時でも美味しいという印象はあったのだが、少しずつ盛られた料理が格別に美味しく感じた。