認知症の母(85才)を支えるN記者(56才)が、介護の裏側をつづる。コロナ禍でのマスク姿に、母が混乱したという──。
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街中、マスクをした人だらけ。人の顔がよく見えないことは、認知症の母にとって大きな不安のようだ。それでも、マスクやフェイスシールドの間から母としっかり目線を合わせてくれる認知症医には、母は心を開き、最上級の賛辞を贈った。
かわいい孫娘の顔が見えない、わからない!
「おばあちゃん、私のことがわからなくなってきたみたい」と、母の歯科通院の同行を頼んだ娘が帰るなり言った。
娘が赤ちゃんの頃から年中預け、一緒に成長を見守ってくれた母だが、高校、大学と進むにつれて会う機会は減り、コロナ禍の昨年にいたっては数えるほども会えていない。
そしていま、私も娘も母のサ高住を訪ねるときは必ずマスク着用だ。毎日顔を合わせるヘルパーさんたちはもちろん、ちょっと外へ出れば街行く人全員がマスク姿。異様なこの光景に私たちは慣れてきたが、認知症の人には不安が増す一方かもしれない。
娘が迎えに行き、普通に会話をしながら歯科クリニックまで行ったが、30分ほど治療して診察室から出て来ると、
「私、娘のNと来たはずなのにいないわ!」と、大混乱したという。孫と来たことを忘れたというより、待合室に座っている全員がマスクをしていて、顔がわからないことにパニックを起こしたのだろう。気づいた娘がすぐに駆け寄ったが、しばらく呆然としていたという。
思いがけないところでも、コロナ禍が認知症の母の混乱に拍車をかけているのだ。