肝硬変は慢性炎症により、肝臓が線維化し、機能低下する病気だ。軽症から中等度では肝機能がなんとか保たれているため、症状が現われないことが多い。これらに対する新しい治療として再生誘導医薬を使った医師主導治験が開始される。人工創薬ペプチドを注射し、間葉系幹細胞の体内での誘導を促して線維化を改善、肝機能の回復を目指す──。
再生誘導医薬というのは患部には直接作用せず、骨髄や血液などに存在する間葉系幹細胞の誘導を促進し、ケガや病気で損傷した組織の再生をはかる薬のこと。生きた細胞を使わない、新しいコンセプトの治療薬である。肝硬変の患者に投与すると間葉系幹細胞が誘導され、肝細胞の線維化を改善して肝臓の機能を回復させる再生誘導医薬の候補として開発されたのがレダセムチドだ。これは生体内のタンパク質であるHMGB1の配列の一部から創生したペプチド(アミノ酸が44個つながったもの)製剤である。
新潟大学大学院医歯学総合研究科消化器内科学分野の寺井崇二教授に聞く。
「HMGB1とは細胞の核内タンパク質のことです。骨髄や臍帯、体脂肪内などに存在し、幹細胞を活性化させる生体内物質のひとつ。そしてHMGB1の一部を人工的に作ったのがレダセムチド(ペプチド製剤)で、これを注射すると間葉系幹細胞の患部への遊走を促します。その結果、線維化の改善や炎症を抑制し、抗酸化作用などを有する間葉系幹細胞が損傷した肝臓に集積することにより、機能の再生を果たします」
寺井教授らは大阪大学大学院医学系研究科再生誘導医学寄附講座の玉井克人教授とバイオ企業のステムリム社との共同で、肝硬変モデルマウスにレダセムチドを投与する研究を実施、高い炎症抑制や線維化改善効果が認められた。
その後、ヒトに対する安全性は健常人を対象とした第1相試験や他の疾患患者を対象に実施した第2相試験で確認済み。以上の結果を踏まえ、軽症から中等度の肝硬変患者に対する第2相の医師主導治験が開始されることになった。