東京都健康長寿医療センター研究所などの研究グループは2020年2月、高齢者の多剤処方に関する論文を発表した。
同研究では、都内の後期高齢者(75歳以上)約109万人のレセプトデータ(診療情報)を分析。患者1人あたり平均6.4種類の薬が処方され、全体の64.0%の人が5種類以上服用していることが判明した。論文では多剤処方の5つの典型的なパターン(別掲図参照)とリスクを示している。
また、多剤処方だけでなく、「加齢リスク」も考慮する必要がある。北品川藤クリニック院長の石原藤樹医師が指摘する。
「薬は胃や腸で吸収されたのちに肝臓で分解され、腎臓や消化管から尿や便として排出されます。しかし、加齢で肝臓や腎臓の機能が落ちると分解や排泄に時間がかかるので体内残存時間が延び、薬が効きすぎて不調が生じることがある」
日本老年医学会の「高齢者の安全な薬物療法ガイドライン2015」には、「高齢者に対して特に慎重な投与を要する薬物」として、29種類の医薬品が掲載されている。
その中には、多剤処方の5つのパターンに登場する薬が多く含まれている。東京都の分析で最多の割合を占めた「高血圧治療薬(降圧薬)」の中では、「ループ利尿薬」のリスクが指摘された。
「尿を増やして体内の塩分を排出して血圧を下げる仕組みで、比較的運動量が多く代謝も活発な中年世代までには有効とされていますが、歳を取るにつれて効きすぎてしまうことがある。それまで服用していた人は、75歳を目安に別の降圧薬への変更を主治医に相談したほうがいい」(同前)