スペシャル版が作られるドラマは人気作品に違いないが、その魅力が時間を経てもなお色褪せないかどうかはわからない。ドラマウォッチを続ける作家で五感生活研究所代表の山下柚実氏が分析した。
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2017年の連ドラ以来、約3年ぶり。いよいよ待たれていた悪女・原口元子が帰ってきました。1月7日に放送されたスペシャルドラマ『黒革の手帖~拐帯行(かいたいこう)~』(テレビ朝日系)。「綺麗過ぎて見とれる」「あまりの美しさと強さにしびれる」という声が続出し、視聴率も二桁に乗せました。
原口元子役・武井咲さんの惚れ惚れするような着物姿に癒やされた人が多かったようですが、しかし今回の武井さん、美しいだけではない。
まずは刑務所からの出所シーンから始まった。横領と恐喝の罪で3年も服役した元子だが背筋はすっと伸び悪びれる様子もなく、堂々と前を向いている姿がいい。出所後にスーパーマーケットのパートやビル清掃のパートとして働く姿も見せた。
そう、武井さんには磨きのかかった美しさだけでなく「生活者」としての凄みも加わり、冒頭から「裸一貫で役に立ち向かう決意と迫力」がプンプンと漂っていました。
さて、舞台は銀座の高級クラブから一転して古都・金沢へ。
ITビジネス長者の神代(渡部篤郎)が経営する高級クラブで働き始めた元子。復讐劇第Ⅱ幕が切って落とされました。神代によって父を自殺においこまれ、復讐の念を燃やす森村(毎熊克哉)と手を組んだ元子の反撃は……というこのドラマ、どこか既視感がある。悪い意味ではなく前作の繰り返しという意味でもなく。スカっと胸のすくようなこの感覚を以前、テレビ画面で経験したことがある。「してやったり」と膝を打ちたくなる気持ち良さ……。
そうです、まさしくあの「倍返し」の世界です。武井咲による黒革の元子は「女版 半沢直樹」。そう言えるほど、いくつも共通点が見つかります。
●溜飲を下げるストーリー
元子が仕返しをするのは、女を人ではなくモノとして粗末に扱う相手や社会。一方、半沢直樹が仕返しするのは、巨悪の権威・権力をかざす組織。いずれも、弱い立場の主人公が強者をやり込める、勧善懲悪的な爽快感があります。
●見得を切る主人公
正面からしっかりと見得を切る主人公。主役を演じる俳優の中にマグマのように貯められたパワーがあり、それが見事に噴出される。高いテンションが見所となっています。
●決めセリフの応酬
「お勉強させていただきます」は、元子の口から繰り返されるセリフ。背後には「あなたを反面教師にさせてもらいます」「復讐の方法も含めて学ばせていただきます」という毒を含んでいます。
そして、半沢直樹の決めセリフといえば「やられたらやり返す、倍返しだ」。いずれも意図されたセリフの反復によって視聴者の爽快感を高めていきます。