灰塚さんは、今までの自分の生き方を「正直に」そして「理想を追い求めてきた」と評価する。
「知らないことは勉強して、正しいことをして、高みを目指していきたい。理想に近づいている、という実感はありますし、自分にとってよくないと思えること、理想とは違うと思うことは遠ざける。精神衛生的にもそれが一番良い気がします」
もちろん、灰塚さんが自身の人生を謳歌する権利はある。ただ、父親の世話を放棄しているようにも見えるが、そのことについて問うと、その矛盾を認めた。認めた上で、今自身が没頭しているという思考を説明しつつ、次のように語った。
「父は、若い頃から酒を飲み、働かず、母親にお金をせびっていました。だから、私が面倒を見ないことは当然なんです。体に悪い生活をしていたら父のようになるからと、今はオーガニック料理を勉強して、ネットで新たな政治活動にも取り組んでいます。やっぱり理想を追い求めて、より高尚な生活をしたいなという思いは強いですから」
いま灰塚さんのSNSを見ると、ヘルシーな菜食主義者向けの料理の写真がずらりと並ぶ。それに混じり、「新型コロナウイルス」は一部の富裕層が作り出した「幻想」であり、彼らが世界を支配するためにマスコミなどを通じて偽情報をばら撒いている、などといった自称「識者」の投稿を頻繁にシェアもしていた。新たに加わった「運動」というのがどんなものか垣間見えたところで、いま、世の中の「矛盾」についてどう思うか、灰塚さんに問うてみた。
「矛盾って、本当は存在しちゃダメだと思うんです。人類や生命の行き着くところ、目指すところは全部一緒で、みんなが幸せになることです。だとすると、みんなが幸せを目指すので、それ以外のことは無駄、ダメということになります。だから、矛盾という存在してはいけないことが見えた瞬間に気持ちが冷めちゃう。その時、また勉強し直して、理想に近いものを取り入れて成長していくんです」
「矛盾」に対して、それを解決したり取り除く行動には出ないまま、頑なにその存在を受け入れない。そして矛盾を嫌うがあまり、美しい理想を追い求め、花から花へと飛び回るように新しいコミュニティへと移ってゆく。その軽やかな姿は好奇心旺盛でアクティブ、健康的にさえ見えることもある。しかし、その理想が偽物か本物かを吟味するよりも、脊髄反射的に移ろい続けていく姿には違和感がぬぐえない。