この世界には、隠された真実があると主張する人たちがいる。では、その「真実」は不変のものかというとそうでもなく、同じ人が、会う度に異なる内容の真実を訴えてくることも珍しくない。独自の理想を追い求め、いくつもの「真実」を渡り歩く女性の主張から考える、個人的な「真実」と社会的に認められる「真実」の乖離について、ライターの森鷹久氏がレポートする。
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「世の中の矛盾が受け入れられないのかもしれない」
灰塚麻里奈さん(仮名・40代)がそう言ったとき、新大久保で彼女と初めて知り合った8年前のことが思い出された。
8年前といえば、少女時代や東方神起が紅白歌合戦に出場するなどした第2次韓流ブーム到来の直後で、韓流スターグッズや韓国コスメが新大久保の店頭にズラリと並び、コリアンタウン化がいっそうすすんだ時期だ。女性でその街を訪れるなら、当然、そういったものへ目が向くと思われるところを、灰塚さんは流行アイテムには目もくれず、目の前を通るデモ隊に、潤んだ視線を投げかけていた。
「本当に、日本政府はおかしいですよね。こうした運動は必要だと思います。今まで誰も言えなかったタブーに切り込んでいるというか、正義を貫いている」
数百人(筆者調べ)のデモ隊は「韓国人を殺せ」「韓国人は出ていけ」と叫びながら新大久保を闊歩していた。聞くに耐えないような「ヘイトスピーチ」を垂れ流しながら、しかし参加者は皆、悦に浸った様な表情を浮かべているのが特徴的だったが、灰塚さんには、これがあのときは「正義」に見えたと今も話す。
正義の人たちだと思っていたのに、嘘をついていたのが許せなかった
灰塚さんと出会った当時、筆者は保守系雑誌に寄稿するため、デモを扇動していたグループの一つ、外国人排斥活動を行う「在特会(在日特権を許さない市民の会)」幹部(当時)にも話を聞くなどして取材を進めていた。賛同するデモを応援するためにやってきたという灰塚さんに声をかけたところ、自分が支持する主張の内容について筆者に語ってくれたのだった。それは、第二次世界大戦後の朝鮮半島は日本のおかげで発展できたのに、現在の日本の発展を阻んでいるのは韓国、北朝鮮であり、その事実を日本のマスコミは隠し、偽りの韓国ブームを作り、金儲けをしようとしている……などといったものだった。さらには「日本のマスコミは朝鮮に乗っ取られた」とまで言う灰塚さんの主張は、のちに顕在化する「ネット右翼」と呼ばれる人々の思考を先取りしていたようにも感じられる。
「ネットでいろんなことを『勉強』していくうちに、私たちは何も知らされていないんだと思いました」