ライフ

娘の体験談を記憶に留めて… 認知症の母が語った「新しい人生」

(写真はイメージ)

娘より孫の方が聞き上手(写真はイメージ)

 認知症の母(85才)を支える立場の女性セブンのN記者(56才)が、介護の日々を綴る。変わりゆく母の記憶から感じたものとは──。

 * * *
 何かとガミガミうるさい娘の私より、母は孫のSによく若い頃の話をする。結婚前の恋愛の事細かなエピソードはほぼSを通じて知ったくらいだ。そして認知症が進んでくると、誰も知らないもう1つの人生を語り出したのだ。

妄想か、現実か? 幼稚園でピアノを弾く母

 母の実家はテーラー(注文紳士服仕立て業)だった。きょうだいの中で手先の器用だった母は祖父に見込まれ、高校卒業と同時に家業を手伝っていた。結婚後も家に小さな仕事場を設え、私が物心ついたときにはいつも服を縫っていた。

 時々洋服店のおじさんが上等な服地を持って来て「よろしくお願いします」と、母に頭を下げているのを見て、子供心に誇らしく思ったものだ。母が立派なテーラーだったことは疑いようもない。

 ところが……「おばあちゃん、幼稚園の先生だったの? 知らなかったよ」と、学校帰りに母の用事を頼んだ娘のSが言ってきた。Sは保育士の勉強をしていて、教科書やピアノの楽譜を見ながら母と盛り上がったというのだ。

「ピアノが上手で採用されたって。3才児は自立心が出て来るとか、妙に詳しいことをいろいろ知ってたよ」

 そんなはずはない。私の知る母の歴史に“幼稚園の先生”が入る隙間などない。ピアノは私が子供の頃に買ってもらったが、母が鍵盤に触れるのを見たことがない。音楽に相当な苦手意識があるのだろうと思っていたくらいだ。

 保育士志望の孫に話を合わせたのか。はたまた密かに幼稚園の先生に憧れていて、妄想してしまったのだろうか。

 それにしても娘は聞き上手で、いつも細かい話を認知症の母から聞き出してくる。結婚前、元彼のTくんにナンパされたとき、実はTくんの友達の方に興味があったとか、Tくんは年下で少し退屈だったとか。そんな話をする母の一面も娘を介して知ったのだ。

 娘へのささやかな嫉妬も半分、“幼稚園の先生”問題の真偽を確かめたい気持ちでいっぱいになったが、2人で『おべんとう』を楽しく歌ったと聞いて、しばらくは黙っておくことにした。

関連キーワード

関連記事

トピックス

中居正広氏と報告書に記載のあったホテルの「間取り」
中居正広氏と「タレントU」が女性アナらと4人で過ごした“38万円スイートルーム”は「男女2人きりになりやすいチョイス」
NEWSポストセブン
大谷翔平が新型バットを握る日はあるのか(Getty Images)
「MLBを破壊する」新型“魚雷バット”で最も恩恵を受けるのは中距離バッター 大谷翔平は“超長尺バット”で独自路線を貫くかどうかの分かれ道
週刊ポスト
もし石破政権が「衆参W(ダブル)選挙」に打って出たら…(時事通信フォト)
永田町で囁かれる7月の「衆参ダブル選挙」 参院選詳細シミュレーションでは自公惨敗で参院過半数割れの可能性、国民民主大躍進で与野党逆転へ
週刊ポスト
主演女優として再ブレイクしている安達祐実
《『家なき子』から30年》安達祐実が“子役の壁”を乗り越え、「2度目の主演ブレイク期」へ 飛躍する43才女優の今を解説 
NEWSポストセブン
約6年ぶりに開催された宮中晩餐会に参加された愛子さま(時事通信)
《ティアラ着用せず》愛子さま、初めての宮中晩餐会を海外一部メディアが「物足りない初舞台」と指摘した理由
NEWSポストセブン
「フォートナイト」世界大会出場を目指すYouTuber・Tarou(本人Xより)
小学生ゲーム実況YouTuberの「中学校通わない宣言」に批判の声も…筑駒→東大出身の父親が考える「息子の将来設計」
NEWSポストセブン
大谷翔平(時事通信)と妊娠中の真美子さん(大谷のInstagramより)
《妊娠中の真美子さんがスイートルーム室内で観戦》大谷翔平、特別な日に「奇跡のサヨナラHR」で感情爆発 妻のために用意していた「特別契約」の内容
NEWSポストセブン
米国からエルサルバドルに送還されたベネズエラのギャング組織のメンバーら(AFP PHOTO / EL SALVADOR'S PRESIDENCY PRESS OFFICE)
“世界最恐の刑務所”に移送された“後ろ手拘束・丸刈り”の凶悪ギャング「刑務所を制圧しプールやナイトクラブを設営」した荒くれ者たち《エルサルバドル大統領の強権的な治安対策》
NEWSポストセブン
沖縄・旭琉會の挨拶を受けた司忍組長
《雨に濡れた司忍組長》極秘外交に臨む六代目山口組 沖縄・旭琉會との会談で見せていた笑顔 分裂抗争は“風雲急を告げる”事態に
NEWSポストセブン
中居正広氏とフジテレビ社屋(時事通信フォト)
【被害女性Aさん フジ問題で独占告白】「理不尽な思いをしている方がたくさん…」彼女はいま何を思い、何を求めるのか
週刊ポスト
食道がんであることを公表した石橋貴明、元妻の鈴木保奈美は沈黙を貫いている(左/Instagramより)
《食道がん公表のとんねるず・石橋貴明(63)》社長と所属女優として沈黙貫く元妻の鈴木保奈美との距離感、長女との確執乗り越え…「初孫抱いて見せていた笑顔」
NEWSポストセブン
「週刊ポスト」本日発売! 中居トラブル被害女性がフジに悲痛告白ほか
「週刊ポスト」本日発売! 中居トラブル被害女性がフジに悲痛告白ほか
NEWSポストセブン