官房長官時代に慣れているからか、菅義偉・首相は記者会見自体はよく開く。しかし、聞かれたことには答えずに、下を向いて官僚が用意した原稿をボソボソと読むだけ。記者クラブには事前に質問内容を提出させ、それ以外の質問は受け付けない。「更問い」と呼ばれる追加質問も官邸から「禁止」通達が出ている。記者が首相にツッコむことを禁じて、なにが記者会見なのか。フリーランスの記者や外国人記者も抽選でわずかに受け入れているが、会見を仕切る官僚は、“うるさそうな記者”は、いくら手が挙がっても指名しない。そして首相自身は、会見を「私からのご挨拶」と言ったり、「見ていない」「私たちはやっている」「専門家の意見を聞いて」などと責任逃れを繰り返すばかりで、やればやるほど国民の不安を煽る悪循環に陥っている。
菅内閣は、もともと感染対策を本気でやる気がないのではないか。政権の「生みの親」である二階俊博・自民党幹事長(全国旅行業協会会長)が推進するGo To キャンペーンをだらだらと続けて第3波を招き、知事たちの要請でようやく緊急事態宣言を出し、出してから「宣言の基準」を考えるという。コロナ特措法も、昨年には野党が同様の法案を提出していたのに審議もせずにさっさと国会を閉じてしまったから、これから考えるというのだ。
目下の最大の危機は医療である。いくらワクチンがあっても国民が自粛生活に耐えても、いざコロナにかかった時に適切な医療を受けられなければ人命は守れない。しかし、ここでも菅内閣は必要な対策をまるで打てていない。まるで、政権の利権にならないこと、Go Toや東京オリンピック・パラリンピックがもはや不可能だとわかってしまう現実からは目を背けようとしているようにさえ見える。
『週刊ポスト』(1月15日発売号)では、菅内閣のままであれば何が起きるかを「絶望のニッポン未来年表」と題してシミュレーションしている。そのなかで、Go To再開による感染爆発や、ワクチンの接種方法について警告を発した上昌広・医師(医療ガバナンス研究所理事長)は、日本が世界から大きく遅れている2つの医療政策について厳しく批判する。
一つ目の問題は、ワクチンの医療者への優先接種だ。
「医療崩壊を防ぐために、すでに日本以外の先進国では医療従事者へのワクチン接種を先行して進めています。フランスはドイツなどに比べて接種ペースが遅いと批判されていますが、日本はそれ以上にひどく、他の先進国に比べて2か月遅れています。医療現場の方がしっかり働けるように、そして院内感染を未然に防いで医療崩壊を起こさないために、まずこれを進めるべきです。
ワクチンには副反応があり、一般の国民に打つためには事前にていねいな説明が必要になりますが、医療従事者はもともとそうした知識がある、むしろ自分たちで知っていなければいけない立場なので、使用許可さえあればスムーズにできるはずですが、日本政府の対応は完全に世界の流れに乗り遅れています」