聞き手はやさしくなれる絆も深める聞き書き
小田さんの講座などから輩出される聞き書きボランティアからは、大先輩の人生の一端を体験させてもらい、やさしい気持ちになれたという声が多く上るという。
「平凡で楽な人生などないことがわかるのです。“すごいなー”と純粋に敬意が湧く。話し手と聞き手、家族間ならなおさら絆が深まるでしょう。聞き書きをしてほしいというお年寄りのニーズは多く、いかに話したいか、孤独を秘めているか。これは日常会話ではなかなかカバーできないことだと感じます。
本を作ることが目的でなくてもいい。ぜひ子供世代から老親に話を聞いてみてください。全国にいる聞き書きボランティアに頼むということもできます」
庶民の暮らしを語り継ぎ世代間交流の好機にも!
聞き書きを福祉に生かしたいと、理事長を務める法人で聞き書きボランティア養成講座(現在、休止中)を運営するのが、秋山正子さんだ。
「20年近く前、小田さんの活動を知り、秋田聞き書き学会に母の聞き書きを依頼してからのおつきあい。高齢者は自分の話をすることで元気になりますが、真剣に向き合って聞いてくれる存在が重要。身近でない他人だから話せることもある。そこでボランティア養成を始め、すでに200人以上を輩出しています。
話し手を中心に3代前までの歴史や文化が3代先の子や孫にも伝わる。それも偉人でなく普通の生活者の暮らしということも貴重だと思います。ボランティアは学生から初老の人まで幅広く、よい世代間交流にもなっています」
【プロフィール】
小田豊二さん/編集者・作家。1945年、旧満州ハルピン市生まれ。出版社、デザイン事務所を経て、劇団こまつ座創立に参加。機関誌『the座』前編集長。20年前から聞き書きを始め、日本聞き書き学校講師として全国を飛び回る。聞き書きをした人は1500人超え。『悠玄亭玉介 幇間の遺言』(集英社)『のり平のパーッといきましょう』(小学館)など聞き書きの著作も多数。
秋山正子さん/ケアーズ白十字訪問看護ステーション統括所長。暮らしの保健室室長。NPO法人白十字在宅ボランティアの会理事長。
取材・文/斉藤直子
※女性セブン2021年1月28日号