2019年のラグビーW杯の準々決勝で、日本代表は強敵・南アフリカ代表に敗れた。ベスト4を狙う大事なこの試合を、それとは別の意味で特別な思いで迎えていたのが、南アフリカ出身の日本代表選手だ。日本を背負って母国と戦った2人の選手の思いとは──。『国境を越えたスクラム』(中央公論新社刊)の著者・山川徹氏が取材した。
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桜のジャージを着て戦う16度目のゲームに対して、ヴィンピー・ファンデルヴァルトは特別な気持ちで臨んでいた。
「相手がとても強いことは分かっていた。すごく緊張しましたね」
南アフリカ出身のヴィンピーにとって、W杯準々決勝の相手は母国。“スプリングボクス”の愛称で親しまれる代表チームに、ヴィンピーも子どもの頃から「めちゃくちゃ憧れていた」からだ。
「昔から仲がよかった選手も出場していました。結果は残念でしたが、世界トップとの差は詰められた。W杯で日本の代表として応援してもらいながら南アと戦えたのは、光栄で幸せでした」
ヴィンピーが日本ラグビーを知ったのは、2011年W杯。ボールを早く動かすラグビーに衝撃を受ける。
2年後に来日し、NTTドコモでプレーを続けるうち日本代表が目標となった。ラグビーのスタイルが自分に合っていると実感したからだ。
W杯の舞台は6年間暮らした日本。2人の娘も日本生まれ。だからこそ、南ア戦直後のコメントには素直な実感がこもる。
「日本のために全力を尽くしたことを、誇りに思っている……」
今シーズン、日本戦で2トライを奪った南ア代表のマカゾレ・マピンピが、ヴィンピーと同じNTTドコモに加入した。
「彼はとても気さくな人で、よく話しますが、あの試合については話していない。だって、いまもまだくやしいからね」
コロナ自粛中、南アに一時帰国した。知人たちは「あんなにハードワークできるチームはほかにない」と口々に賞賛する。ヴィンピーは“日本代表の誇り”を改めてかみ締めた。日本だけでなく、世界中のファンに愛されているんだな、と。