東京・世田谷区の閑静な住宅街に、客が3人入ればいっぱいになるほどの小さなパン店がある。創業35年だが、店の外壁はきれいに塗り直されたばかり。近づくと焼きたてパンの香ばしい香りが漂ってくる。ここ「キャッスル」は、昨年7月18日に自ら命を絶った、三浦春馬さん(享年30)の行きつけの店だった。
「春馬くんが好きだったのはシナモンロールとパネトーネ……」
「あとバナナマフィンもよく買ってくれたわねえ」
そうしみじみと話すのは、店を営む安野豊さん(79才)と近江さん(73才)夫妻。三浦さんは10年ほど前からこの店に足繁く通うようになり、2人を「お父さん」「お母さん」と呼んで慕っていたという。
「春馬くんの舞台を見に行こうと思ったらチケットが取れなくて。そうしたら“ぼくが取りますよ”と。楽屋にも招待してくれたんです」(近江さん)
「ぼくがけがをして入院したときは、仕事の合間に病院までお見舞いに来てくれました。本当に優しい男でした」(豊さん)
安野さん夫妻にとって三浦さんは“自慢の息子”、三浦さんからすれば夫妻は“東京の両親”のような存在だった。だが、亡くなる1年ほど前から三浦さんはまったく店に顔を見せなくなった。メールを送っても返信がない。安野さん夫妻が心配するなか、訃報が届いた。
自殺から5か月後、昨年12月11日に三浦さん主演の映画『天外者』が公開されると、安野さん夫妻は幾度となく映画館に足を運んだ。
「何回見ても、涙が出ます。ぼくはそっと涙を拭くくらいに抑えるようにしているんだけど、こいつ(近江さん)は大声で泣いちゃって」(豊さん)
失意の底に沈んでいた安野さん夫妻を元気づけてくれているのは、三浦さんのファンたちだという。