バイデン新大統領が誕生したが、アメリカの分断は残った。ニューヨーク在住ジャーナリスト・佐藤則男氏は、それでも就任式からアメリカの新時代を感じたとリポートする。
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ジョー・バイデン新大統領の就任式が行われていたさなか、友人のピーターと電話で話した。「アメリカの自由と民主主義に祝福を」と筆者が言うと、ピーターは「まさにその通りだ」と答える。
就任式を見ていてピーターに電話しようと思い立ったのには理由がある。ピーターは20年前、中国に孤児を引き取りに行った。そして、親の顔も知らない女の子を連れて帰った。それからピーターは、祖父と協力して男手だけで女の子を育てた。その娘は昨年大学を卒業し、今はコロナ危機と戦う医療機関で働いている。数学が得意で、職場でも人気者である。アジア人は数字に強い傾向があり、様々な職場で活躍している。しかしこの1年、トランプ大統領が「パンデミックは中国のせいだ」と責め立て続けたので、彼女をはじめ中国系の人たちは肩をすくめて生きてきた。本人にとってもピーターにとっても、この就任式は長く暗い時間からの解放を意味していたのである。
就任式には、クリントン元大統領夫妻、ブッシュ元大統領夫妻、オバマ元大統領夫妻が参列した。会場から大きな拍手で迎えられる。この3組の元大統領夫妻が席に着くと気持ちが落ち着く。やっとアメリカが返ってきた、という安心感が湧いてくるのである。
トランプ前大統領夫妻は、朝早くホワイトハウスを発ち、フロリダに向かう機中から退任の演説をした。4年間の大統領在任中、経済が史上最高の成長を見せたとか、不法移民が減ったといった内容で、相変わらず誇張と嘘が織り交ぜられていた。そして、「必ず帰って来る」と捨て台詞を残した。トランプ時代の終わりを実感した。
とはいえ、見送りにはトランパー(熱狂的支持者)たちが大勢集まり、大歓声も起きた。これからもアメリカの政治と社会の分断は続くだろうと思うとうんざりする。
就任式を見ているさなか、携帯にメッセージが入った。セオドア・ルーズベルト元大統領の子孫であるツイード・ルーズベルト氏からだった。筆者はルーズベルト元大統領の大ファンで、25年前から同氏の足跡を伝える団体のメンバーである。ツイードはその代表で、親友でもある。メッセージには、この新しい大統領の下に、右も左もなく、国民が一致結束し、団結してパンデミックに打ち勝ってアメリカを再生させよう、と書いてあった。彼もまた、就任式を見て胸を熱くしていたのだと思う。