新型コロナウイルスの感染拡大で厳しい現実に直面する日本の医療現場。がん患者の支援団体「CSRプロジェクト」が行った調査によると、がん患者の8人に1人が治療の内容や時期を変更せざるをえなくなっているという。自らもがんによる入院・自宅療養を経験したフリーアナウンサーの笠井信輔さん(57才)に、コロナ禍での闘病生活について話を聞いた。
笠井さんは2019年12月、「びまん性大細胞型B細胞リンパ腫」との診断を受けた。このときすでにステージはIVで、抗がん剤の持続点滴による入院治療が進められた。
Instagramやブログを通じて精力的に発信を続けながら、厳しい治療は続いた。回数を重ねるにつれて強まる抗がん剤の副作用に弱音を吐いてしまうこともあった。
「私の場合、投与後の1週間がきつかったです。全身が鉛のように重くダルい。味覚障害や口内炎にも悩まされましたが、それ以上に問題だったのは指先の痺れ。力が入らず、爪切りもままならないのです。いまはリハビリで回復しましたが、当時はどうなることかと思いました」(笠井さん・以下同)
追い討ちをかけるように、コロナ禍での入院生活で過酷な状況を強いられた。
「いちばん堪えたのはお見舞い禁止の面会謝絶です。われわれがん患者を含め、闘病生活を送る人のモチベーションとなるのは同じ病気を克服した人の体験談だったりするのですが、見舞いに来てくださるかたがたからそうした話を聞いて気力を保てていたんですね。苦しい治療の助けにもなっていました。そうした交流が、感染拡大を境に一切なくなってしまったため、大変な孤独感に苛まれました。
これは病院に限らず、高齢者施設や障害者施設にもいえることですが、今後は入院患者や施設利用者のメンタルケアが重要な課題となってくると思います」
約4か月半の入院生活を終え、退院日を迎えたのは緊急事態宣言下の4月末。がんはほぼ消えていたが、抗がん剤の影響で白血球の数値が通常の人の半分にも満たない状態。免疫力の低下はウイルスの攻撃を受ければ重症化が危ぶまれる。自宅療養はコロナとの新たな闘いの始まりでもあった。