新型コロナウイルスの感染者が増加したことで、厳しい状況に追いやられている医療現場。がん患者の支援団体「CSRプロジェクト」の調査では、がん患者の8人に1人が治療内容やスケジュールの変更を余儀なくされたというデータもある。そこで、このコロナ禍において、がんによる入院・自宅療養を経験したフリーアナウンサーの笠井信輔さん(57才)に話を聞いた。
笠井さんが「びまん性大細胞型B細胞リンパ腫」と医師から診断を受けたのは2019年12月のこと。ステージはIV、すでに全身にちらばっており、抗がん剤の持続点滴による入院治療が進められた。
約4か月半の入院生活を終え、緊急事態宣言下の4月末に退院。がんはほぼ消えていたが、抗がん剤の影響で免疫力は低下し、ウイルスに感染すれば重症化が危ぶまれる。そんな危険な状態で自宅療養をすることとなった。
家族のサポートを受けながら、自室で“ロックダウン”をしていた笠井さん。何より驚かされたのは、子供たちのめざましい成長ぶりだという。笠井さんが振り返る。
「入院する前までは家事なんて何も手伝わなかった子供たちが協力してくれるようになったんです。体力回復のための散歩につきあってくれたり、料理を作ってくれたり。三男が焼いてくれた卵焼きは、わざわざ私の母に教えてもらったおふくろの味でした。うれしくてね。
本当に一つひとつ、家族に支えられてきたんですけれど、最初、それは私が病人だからなのかなと思っていたんです。だから家族がすごく優しくなったのだなと。それを妻に話したら、意外な答えが返ってきました。『私たちが優しくなったのは、あなたが変わったからなのよ』って。目からウロコでした。
それまでの私はずっと仕事を最優先してきて、家庭では非常に評判の悪い父親だったものですから(苦笑)。『お父さんは自分勝手。自分のことしか考えていない』とよく言われていました。それが、がんになって、コロナの感染拡大が続くなか、気弱になるにつれ、子供たちの前でも素直な面が出せるようになった。つくづく、家族って“合わせ鏡”のようなものなんだなと考えさせられました。
闘病期間中をプラスにとらえて考えてみると、神様が家族の再構築のために時間を与えてくれたのかもしれない、と思ったりします」(笠井さん・以下同)
コロナがもたらしたものはデメリットだけではなかった。退院1週間後には、リモート出演でテレビの仕事に復帰することができたのだ。
「予定では夏頃をめどにしていた仕事の再開も、リモートワークが推奨されたことで思いもよらず早く実現を果たせました。
『もしかしたら自分は世間から忘れられているかもしれない』という不安もあったので、それが自分にとって大きな自信にもつながりました。
リモートの普及によって実感したことは、これは弱者の味方となるシステムなんだということ。私のような基礎疾患があってなかなか外に出られなかった人や、身体的、精神的に障害を抱えている人たちがリモートで社会に進出しやすい環境になってきたのです。
以前は現場主義で、会社に来ない人は、ややもすれば一段低い評価でしたが、いまは現場と対等。それ以上の地位で働けるようになりました。
だから、いまこそ部屋から出られなかったり、出勤することができなくて世の中に対して遠慮をしていたり、忸怩たる思いでいる人たちが大きく羽ばたけるチャンスを得たと思って動いた方がいいんですよ」