このままでは、世界に憎まれたオリンピック・パラリンピックとして人々の記憶に残る事態になりかねない。国内では、一般国民へのワクチン接種が「5月末に始まる」と報じられるなか、どうやって7月にオリンピックを開けるというのだろうか。その時点でワクチン接種が完了している可能性はゼロなのに世界中から選手や観客を迎え入れるなど、「間に合わなかった国民は死んでも仕方ない」と言っているようなものだ。
オリンピック利権をどうしても手放したくない菅政権や一部の関係者たちは、いまだにオリンピックを強行する姿勢を崩していない。せめて「国民の意見を尊重して判断する」とでも言えば少しは信用されるものを、「実現に向け全力で取り組む」「準備はできてる」と繰り返すだけだから、世論はどんどん離れていく。すでに各種調査では約7割の国民が今夏の開催に反対しているというのに、この政権の強権姿勢は北朝鮮か中国を彷彿させる。
ここにきて国民の怒りにさらに燃料を注いでいるのが「コロナ対策もオリンピック優先」というプランである。本来は必要な人から優先されるべきワクチンやPCR検査を、まず参加選手や大会関係者に回そうという意見である。政府も組織委員会も公式にはそう言っていないものの、そうした声があることが報じられると、ネットでも「オリンピック選手は選民だということか」と怒りの声が飛び交った。
『週刊ポスト』(1月25日発売号)では、オリンピアンにワクチンを優先接種するという意見について、スポーツ界、医学界など多彩な識者が論じている。そこで浮かび上がったのは、五輪推進派も反対派も、組織委員会や政府の姿勢には総じて批判的である現実だ。本誌で掲載しきれなかった意見を紹介する。
優先接種に賛成している国士舘大学法学部客員教授の鈴木知幸氏も、ワクチンさえ打てば五輪は開催できるという楽観論には警鐘を鳴らす。
「たとえ選手や役員にワクチンを優先接種したとしても、開催は無観客を条件にして、それを組織委員会が一刻も早く公表すべきです。しかし、チケット代減収を懸念してぐずぐずしている。それどころか、選手村村長の川淵三郎氏は、『客がいない中で五輪をやって、どんな値打ちがあるのか』などと語っているが、極めて遺憾ですね。まず無観客というスタートラインに立って、もしワクチンの接種が劇的に進んできたら、安全性を説明して2割、3割と増やす計画にしていけばいいんです。そう決断すれば、放送価値は上がる一方で、3000億円とされる追加経費だって相当削減できるでしょう」