バイデン政権が全速力で始動しているが、フロリダに去ったトランプ前大統領は隠居したわけではない。新しい動きが見えてきた。ニューヨーク在住ジャーナリスト・佐藤則男氏がリポートする。
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トランプ前大統領は、1月20日にホワイトハウスを去る際、アンドルーズ空軍基地で支持者たちを前に演説し、「I will be back.(私は戻ってくる)」「I will see you soon.(すぐに会える)」と述べた。日米のマスコミのなかには、この言葉を根拠に、トランプ氏が新党結成を考えているのではないかと報じたところも多かった。が、それは違うのではないか。
アメリカの政治や社会問題を扱うニュースサイトAxiosは、トランプ氏がデジタルメディアのベンチャーを設立するのではないか、という観測記事を掲載している。これは、筆者がトランプ氏の友人であるF氏から得た情報と一致する(すでにNEWSポストセブンでリポートした通り)。
トランプ政権が誕生した直後に、F氏はトランプ氏について、定まった世界観や価値観はなく、損得を重んじるビジネスの原理で動く人物だと指摘していた。この4年間を見ると、確かにその通りだと感じるし、思想なき政権が倒れることも当然だったのだろう。それは政治家としての欠点でもあるが、同時にトランプ氏の才能でもある。トランプ氏の本領はビジネスで発揮される。不動産取引、不動産開発が主業であり、もう一本の柱は、趣味でもあると思うが、「You’re Fired!」の決め台詞で有名になったテレビのバラエティショー出演や、ミスユニバースなど娯楽性の強いコンテンツ作りである。トランプ氏のビジネスの能力については疑問を持つ人も多いが、娘のイヴァンカ氏、その夫のジャレッド・クシュナー氏など、ビジネスに有望な身内もいる。ビジネス界に戻ったトランプ氏は、もしかすると政界にいるより手ごわいかもしれないのだ。
トランプ氏は、新党を作って仲間を集め、党勢を拡大していくというような地道な作業するマメな男ではない。最短距離で新しい市場に参入し、利益をあげ、会社を売り、大金を儲ける、というアメリカ的発想のビジネスマンである。F氏もかつて、「あれは政治などやれる男ではない」と評していた。
現在、ケーブルテレビ界のキングはFOXニュースである。共和党テレビと呼ばれるように、保守系メディアで圧倒的な存在感を示してきた。ブッシュ政権時代にはブッシュ・チャンネルと呼ばれ、トランプ時代にはトランプ・チャンネルと呼ばれた。しかし、これもすでにリポートしたように、同局は昨年11月の大統領選挙報道で、他局に先駆けてトランプ敗色濃厚を伝え、それに激怒したトランプ氏と袂を分かったとされている。
F氏によれば、FOXとの決別は、トランプ氏が独自のメディア設立を考える大きなきっかけだった。FOXオーナーのルパート・マードック氏はメディア王と呼ばれるが、その巨大な敵に対抗するには、同じケーブルテレビの土俵では分が悪い。まだ新しい市場であるデジタル・テレビの設立を考えるはビジネスマンとして当然だ。コストははるかに安く、視聴料金を格安にすれば視聴者の獲得には時間はかからない。このジャンルで先行する企業の例だと、無料放送を視聴した人の有料契約率は非常に高いとされ、巨大な装置産業である既存のテレビ局にとっては脅威になっている。マードック氏にとっては、手を切ったトランプ氏がそこに参入するとなれば強敵だろう。