新型コロナウイルスのワクチンを打つ“順番”を巡っては、多くの議論がある。国家的大イベントのために「列の横入り」は許されるのか──開催可否さえ不透明になってきた東京五輪にとってワクチンの登場は朗報なのか、さらなる混乱を招く火種となるのか。
「1年延期」となっていた東京五輪の開会式が予定される7月23日まで、いよいよ半年を切った。
ここにきて浮上したのが「アスリートのワクチン接種」問題である。
1月に入り、国際オリンピック委員会(IOC)の最古参の委員であるディック・パウンド氏が英メディアに対し、「東京五輪開催のために、選手たちに新型コロナのワクチンを優先的に接種させるべき」という意見を述べたのだ。パウンド委員は、今後の対応は各国の判断だとしながらも、優先接種が「最も現実的な進め方」だとしている。
とはいえ、日本国内ではワクチン接種がこれから始まるという段階だ。橋本聖子・五輪担当相は「(参加には)ワクチンを前提としない」と火消しに回った。改めて東京五輪組織委員会に見解を問うても、「ワクチンがなくても安心・安全な大会運営ができるよう検討し、12月の中間整理に至ったところ」(戦略広報課)とするのみだ。
ただ、関係者のワクチンへの期待は高まっている。元東京五輪招致準備担当課長で、国士舘大学法学部客員教授の鈴木知幸氏はこう話す。
「ワクチンに現段階で報じられているような効果があるとすれば、選手たちが接種できたほうがいいのは明らかでしょう。もちろん、対象は必要最小限にしなくてはならない。選手だけなら約1万1000人、役員等を含めてもおよそ2万人です。
ここは、IOCが世界に向けて“無観客で、かつ選手・役員を完全に隔離することを条件に、なんとか2万人分だけ先に出してもらえないか”と発信するべきでしょう。反対する人もいると思いますが、それを乗り越えて理解を求める役割がIOCには期待されます」