東京はじめ大都市圏で医療崩壊の危機が刻一刻と迫っている。緊急事態宣言が出て2週間経って、東京では1日の新規感染者が1000人を下回るようになってきたが、単純に重症化率1.6%を掛けると、1000人の新規感染者がいれば毎日16人の重症者が出る。これでは重症者用のベッドがどんどん埋まっていくのは当然だ。死亡率は約1%だから、東京だけで毎日10人が命を落とすことになる。いくら新規感染者が減っても、これでは緊急事態宣言を解除することは不可能である。
それにしても、先進国で人口あたりの病床数が最も多いといわれる日本で、なぜこんなことになっているのか。菅義偉・首相は会見で、「政府としては、ベッドは数多くあるわけでありますから、それぞれの民間病院に一定数を出してほしいとか、そういう働きかけをずっと行っているということも事実であります」と語り、民間病院が非協力的だから医療崩壊が起きると主張した。コロナ患者を受け入れれば、かえって経営が悪化するという実態が昨年から指摘されているのに、ほとんど支援策を打たずに放置している政府の責任は重いが、それ以前に、そもそも「民間病院が受け入れないせいだ」という認識自体が間違っている。医療ガバナンス研究所理事長で医師の上昌広氏が指摘する。
「たしかに日本の場合、新型コロナの感染者はアメリカと比べて30分の1、ヨーロッパと比べて10~20分の1という非常に少ないレベルです。医療崩壊するというのはおかしいのです。病床数も諸外国に比べて多い。OECD加盟国のなかで人口あたりの病床数はトップです。では、なぜ入院を希望する患者を病院が受け入れられないのか。
菅首相は、民間病院を含めて広く薄くコロナ病床を用意すべきだと言っていますが、むしろやるべきは選択と集中、つまり特定の病院をコロナ専門にして、患者を集中して入院させることです。コロナ患者を受け入れている割合で見れば、公立病院は71%、公的病院83%、民間病院21%というデータがあって、たしかに民間病院はもっと受け入れられそうに見えます。しかし、実際には規模の大きい公立・公的病院があまり重症者を受け入れていないことのほうが問題なのです」