日本の知の最高峰とされる東大。その卒業生ともなれば、大きな挫折もなく順風満帆な人生を歩んでいる、そう思う人は多いだろう。しかし、誰もが羨む肩書きを持つがゆえ、最初の就職先を誤ると大きな方向転換を迫られることもある。『東大なんか入らなきゃよかった 誰も教えてくれなかった不都合な話』(飛鳥新社)の著者で、自身も東大出身のライター・池田渓さんがリポートする。
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東大卒という学歴は、時として人のコンプレックスを意図せず刺激する。同窓生が少ない地方に東大卒の肩書きを引っ提げて就職すれば、激しい逆学歴差別やイジメを受けることもある。東大文学部を卒業後、地元である関西の市役所職員として働き始めたY氏(男性、就職当時25才、現在33才)もその洗礼を受けた一人だ。
公務員になろうとする東大生の多くは、学生のうちに国家公務員総合職(旧・国家公務員I種試験)や国家公務員一般職試験(旧・Ⅱ種)をクリアして、卒業後は中央官庁に入る。東大卒のY氏のように地元に帰って市役所職員になるケースは珍しいが、ちょうど進路を選択する時期に地元の親御さんが大病を患ったため、大学院への進学を諦めてなるべく近くにいてあげることにしたのだという。
Y氏の「東大卒」というキャラクターを標的にした職場の先輩たちのイジメは、勤務初日から意図的な“ネグレクト”の形で始まった。鳴り物入りで入ってきた東大卒の新人が自分たちの立場を脅かすようになる前に、職場内での「格付け」を終えておきたかったようだ。
「ぼくが東大卒でなければ、あそこまでつらい目には遭わなかったはずです」(Y氏、以下同)
それまで「高学歴」とされる人間のいなかった職場に、東大卒という「異物」が混入したことで起きたイジメ。筆者が彼に直接会ってインタビューをしたときには既にイジメから何年も経っていたはずだが、当時のことを話し始めるとY氏は顔を大きく歪めた。彼にとって余程つらい記憶のようだった。
その残酷なイジメの詳細については拙著に譲るが、Y氏は1年半ほど働いた後、市役所を退職した。辞める直前には、ストレスから胃に潰瘍ができ、激しい腰痛でまともに動けなくなっていたという。ひどいときは排便も困難で、そんなときは親御さんに補助してもらうこともあった。病気の親御さんの近くにいてあげるための地元での就職だったのに、逆に親御さんに介護されていたのでは本末転倒だ。