累計400万部超を売り上げた作家・小松左京氏の代表作『日本沈没』は何度も映像化され、今年10月の日曜劇場(TBS系)でもドラマ化の予定だ。2006年版の映画で監督を務めた樋口真嗣氏が、その原作の魅力を語る。
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小学校2年生のとき、たまたま親父に連れられて映画館に観に行ったのが『日本沈没』(1973年版)でした。
それまで映画は楽しいものだと思っていたのに、日本が大地震や津波に襲われ、容赦なく人が亡くなり、街が壊されていく。声高には言えないと思いながらも異常に興奮して、原作を読みました。他の小説と違って情緒が一切なく、地震発生や国鉄の不通などの描写が延々と続く。“神の視点”のような描写に、子どもながらに魅力を感じました。
高校生になった頃、小松さんが日本のSF作家を集めて、世界と勝負できるSF映画『さよならジュピター』(1984年)を作る、と雑誌で読みました。しかも小松さんが総監督として本気で取り組むと書いてある。それで高校をサボって毎日のように世田谷の撮影所に潜り込みました。その経緯で製作を手伝うようになった。小松さんは雲の上の人で、遠巻きに見るだけで話す機会もありませんでした。でも、この時の経験が、映画の仕事に就くきっかけになりました。
〈小松作品に導かれて映画界に入った樋口氏は、2006年版『日本沈没』で監督を任される。脚本作りの中でくだした決断が「結末の変更」だった。〉
小説や1973年の映画では、日本はなすすべもなく沈没しました。でもその後、小松さんは小説『さよならジュピター』で、地球に近づくブラックホールに対して人類が全力で対抗する様を描いた。
人間が向き合わなきゃいけない運命に対して、1973年の『日本沈没』では諦観したけれども、『さよならジュピター』以降の小松さんは、もっと人間にできることがあるという考えに変わったのではないか。そう小松さんに話すと、「映画は君の好きなようにやればいい」と仰っていました。