失意のままワシントンを去ったトランプ前大統領は、メディアからも議会からも追撃を受けてサンドバッグになっている。が、早くも復活の兆しが見え始めた。ニューヨーク在住ジャーナリスト・佐藤則男氏がリポートする。
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2月8日からの週に始まる予定の弾劾裁判だが、トランプ前大統領は、またしても無罪放免になることが確実となった。1月6日、連邦議会議事堂を襲った暴徒たちを扇動したとして、トランプ氏は下院で弾劾の議決を受けたが、その裁判は上院で行われる。弾劾が成立するためには、3分の2の賛成が必要である。
裁判に先立ち、1月26日に上院は弾劾裁判を進めるかどうか投票を行った。共和党上院議員50人中、裁判に賛同したのはわずか5人だった。民主党と共和党の議席が50対50の上院で、裁判を行うかどうかの評決が55対45だったということは、この時点でトランプ氏が2度目の弾劾裁判をクリアしたことを意味する。
トランプ氏に批判的なニューヨーク・タイムズは、「一握りの議員を除く共和党議員の裁判への反対は、トランプ氏の選挙敗北を覆すための厚かましいキャンペーンの後でさえ、同氏が党内で引き続き力を持つことを強く示した」と悔しそうに報じた。
報道が党派性を持つことは避けなければならないとはいえ、ニューヨーク・タイムズの主張はおおむね正しい。トランプ氏が長いアジテーション演説で、支持者たちに議事堂に乗り込むようけしかけていたことは紛れもない事実である。実際に議事堂に押し入った支持者たちの証言からも、演説の影響は間違いない。それは民主党支持者であろうと共和党支持者であろうと一目瞭然なはずだ。そうであれば、それが大統領としてふさわしい行為だったかどうか、裁判で明確にすることに反対する理由はない。良識の府である上院の共和党議員45人が、こんな当たり前のことに反対するというのは公平に見ておかしいことだ。裁判の評決以前に、事実を明らかにする努力をするかどうかは政治家の良心の問題だろう。
共和党議員がトランプ氏を追及したがらないのは、すでにNEWSポストセブンでリポートした「トランプ・チャンネル」を気にしているからだ。トランプ氏は近く、保守系のデジタル・メディアを作り、そこを拠点に自分の主張を展開していくと推測されている。実現すれば、これまでFOXニュースなどが獲得してきた保守派の視聴者を一気に囲い込んで、メディアの業界地図を塗り替える可能性も秘める。