ジャパニーズウイスキーが世界的なブームとなるなか、いま、北海道の厚岸(あっけし)町に蒸溜所を構える“新参者”が飛ぶ鳥を落とす勢いだ。堅展実業が手がける厚岸蒸溜所である。
2016年10月に蒸溜をスタートさせた同社は、ちょうど3年の樽熟成を経て昨年2月に初のシングルモルトウイスキー「サロルンカムイ」をリリース。アメリカ最大の「サンフランシスコ・ワールド・スピリッツ・コンペティション」で最優秀金賞を受賞した。さらに、10月末には同社初のフルボトルとなる「厚岸 シングルモルトウイスキー 寒露」を発売し、1万5000円(税別)という強気の価格設定ながら、即座に国内外で1万5000本が入手困難なプラチナ・ボトルに化けた。
同社は食品原材料を輸出入する商社だが、2010年からウイスキー製造事業に乗り出した。樋田恵一社長にあったのは、愛飲するスコットランド・アイラ島産のようなウイスキーを造りたいという一心だ。アイラ島に似た風土を探し求め、道東の厚岸に辿り着く。一年を通して冷涼で湿潤な厚岸には、透明度が高く仕込み水に最適なホマカイ川が流れ、湿地帯特有のピート(泥炭)も豊富に採取できる。
厚岸ウイスキーといえば、ピートの効いたフルーティな味わいが特徴だが、今後はそこに厚岸色をより加味していく。大麦の生産を開始し、製麦棟も現在建設中。地元のJA等の協力を得て栽培した大麦を、厚岸の泥炭で燻す製麦作業が可能となる。麦汁を発酵させる時に使う酵母も厚岸オリジナルのものを使い、厚岸の町有林であるミズナラ樽で熟成させることも視野に入る。
「すべての原料を厚岸産でまかなう“厚岸オールスター”の実現も目の前まできています」(広報担当者)
蒸溜開始から4年あまり。サントリー、ニッカという二大巨頭に生産量はかなわなくとも、厚岸蒸溜所はその動向を世界が注目するクラフト蒸溜所となった。
撮影/太田真三
取材・文/柳川悠二
※週刊ポスト2021年2月12日号