東京五輪「中止」が日に日に現実味を増してきた──。もし、このままコロナが収束せずに東京五輪が中止となった場合、日本経済はどれほどの損失を被ることになるのか。関西大学名誉教授の宮本勝浩氏が解説する。
「経済損失は4兆5000億円超になると考えられます。これは実に日本のGDPの約1%に相当する金額です。これまでの設備投資の経済効果は完了していますが、大会開催中の“観戦客などの消費効果”や大会終了後の“レガシー効果”が消失することになる」
すでにその影響は現われてきている。東京商工リサーチが1月27日に発表したレポートによると、昨年2月以降、新型コロナ関連の経営破綻は累計971件。その中には五輪開催によるインバウンド需要を見込んでいた企業の倒産例も少なくない。
中止の影響が最も大きいのが、大会を支える「オフィシャルスポンサー」企業だ。東京オリンピック・パラリンピックの国内スポンサー企業は、出資額が最上位の「ゴールドパートナー」15社を筆頭に、「オフィシャルパートナー」が32社、「オフィシャルサポーター」21社の計68社だ。
具体的な金額は公表されていないが、それぞれがスポンサーランクに応じた出資を拠出する。最も出資額が少ないオフィシャルサポーターでも10億円以上を負担しているとされる。
前回大会まではスポンサーは「1業種1社」の縛りがあったが、日本オリンピック委員会(JOC)はその枠を撤廃。各業界の競合が相乗りする“呉越同舟”状態となったため、東京五輪のスポンサー料は過去最大だった北京大会の3倍にあたる「3500億円」と、史上最高を記録した。
さらに昨年「1年延期」が発表された際には、220億円の追加出資に応じたため、総出資額は3720億円となった。スポンサー企業は事業が五輪と密接に関わっているため、中止決定は「経営危機」に陥るリスクとなりうる。
払い戻し資金をどうする……
特に厳しい状況にあるのが、「旅行代理店」と「航空会社」だ。池田総合会計事務所代表で税理士の池田陽介氏が解説する。
「近畿日本ツーリストを傘下に置くKNT-CTホールディングスの決算短信を見ると、昨年4~9月の『営業活動によるキャッシュ・フロー』が32億円の赤字です。本業で獲得したキャッシュより、仕入れや人件費など社外に出たキャッシュが多かったということ。キャッシュ不足の前兆であり、厳しい経営状態に追い込まれつつある。五輪特需の喪失はその追い打ちになりかねません」