緊急事態宣言が出て、新規感染者数は若干減少に転じているが、重症者や入院者は減らず、死者はむしろ増えている地域もある。それだけ医療現場のリソースが逼迫し、本来は受けられるはずの医療が受けられない「医療崩壊」が起きつつあることを表している。
『週刊ポスト』(2月1日発売号)では、医療崩壊に対処できない原因はどこにあるかというテーマで、特に医師会の責任と国立大学病院の責任を、様々な立場からの証言、提言を交えて詳しく報じている。そこでも論じられているように、日本医師会に構造的な問題や医療崩壊への責任の一端があることは間違いないが、根本的には対策を講じるべき政府の無策、不作為こそが問題だ(同誌では別特集で政府の責任も論じている)。医師、医師会の立場から見た医療崩壊の根本原因と政府の責任について2人の識者に話を聞いた。
医師で作家の木村もりよ氏は、すでに医療崩壊は起きているとして、医療の総動員が必要だと主張する。
「残念ながら、すでに医療崩壊は現実になっています。日本医師会と国、厚労省がやるべきことをやってこなかったツケを国民が払わされています。日本の病院は、民間病院が8割、公立・公的病院が2割ですから、国家的なコロナ危機に対処するには、民間を含めた医療を総動員しなければなりません。
しかし、民間病院がコロナ患者を受け入れるためには、一般の患者と接触させないための導線やベッド・病棟の確保、通常医療の4倍かかるといわれるマンパワー、さらには風評被害のリスク回避など、様々な対策が必要になります。それを自己資金でやれば赤字になる。開業医がコロナ患者の受け入れに積極的でないのは当然なのです。
だから政府も医師会も、まずはお金の問題で動くべきでした。政府予算には5兆円の予備費があり、第三次補正予算でも約19兆円が上乗せになりました、そこからコロナ患者を受け入れた民間病院の損失補填ができるような規制緩和や、財務省にお金を使えるよう申請するなどすればよい。しかし、国や財務省は特定の業界の損失補填を認めることを嫌がった。ここまできたら、そんなことを言っている余裕はありません。医師会も政府も腹をくくって医療崩壊を防ぐ政策に力を注ぐべきです」
同じく政府が民間病院の支援に二の足を踏んできたことを告発するのが、「くどうちあき脳神経外科クリニック」院長の工藤千秋・医師だ。
「医師会はずいぶん前から、政府にコロナ治療をするための費用を負担してほしいと要望していました。医療機関の病床を維持するには年間1000万円くらいのコストがかかります。100床の病院なら年間10億円。それに見合う収入がなければ赤字です。
その半分をコロナ患者用に振り分けたとしても、治療で十分な収入が確保できなければ赤字になります。仮に5億円の赤字が出たとすれば、その分は政府が補償してほしいという要望を何度も出しているのです。しかし、国は反応しない。
政策的な後押しがあれば、民間病院もできることはやりたい気持ちなのです。政府が何も支援せず、むしろ患者を受け入れない医療機関を公表するなどという法改正は全く間違っていると思います」