菅義偉・首相は1月18日、コロナワクチン接種の総合調整を行なう「ワクチン担当相」に河野太郎・行革相を起用する人事を発表した。その翌日には、菅首相は河野氏とともに小泉進次郎・環境相を官邸に呼んでワクチン対応を協議し、進次郎氏を河野氏の事実上の“補佐役”に任じた。
河野氏のワクチン担当相起用は政権の屋台骨に亀裂を広げている。大いに不満を鳴らしているのが菅首相の後見人でもある二階俊博・自民党幹事長だ。
「党は人材豊富だが、とりあえず河野君だけでいい」
会見で二階氏は“とりあえず”と人事を渋々認めたものの、ワクチン接種のスケジュールをめぐる河野氏と坂井学・官房副長官の官邸内バトルが勃発すると、“そら見たことか”といわんばかりに、「論評するに至らない。発言を片方が取り消すとか面倒くさい。よく調整してもらいたい」と、突き放した。
二階氏は河野起用の裏に菅首相の“叛意”を感じて警戒している。いまや菅首相と二階氏の関係は急速に冷えつつある。
内閣支持率が急落すると二階氏は距離を置き、ポスト菅の総裁選に野田聖子・幹事長代行を擁立する構えを見せたからだ。
「とにかくこの悪いムードを変えないと選挙を戦えない。そのためには憲政史上初の女性首相とか思いきったことが必要だと二階さんは考えている。野田後継なら選挙はなんとかしのげる」
二階派幹部からそうした情報が流され、党内でも野田氏がポスト菅の有力な総理・総裁候補との見方が広がっていた。ところが、菅首相が「河野カード」を切ったことで目算に狂いが生じた。「ワクチン担当相」という人事一つで、河野氏が野田氏に代わる有力な次期首相候補としてクローズアップされたからだ。政治ジャーナリストの野上忠興氏が語る。
「このまま支持率が回復しなければ、菅首相は9月の自民党総裁選への出馬は見送らざるを得なくなる。“万が一”に備えて後継者として河野氏を擁立し、河野首相・小泉官房長官コンビで総選挙を戦うシナリオも念頭にあるのではないか。党内基盤に乏しい菅首相が退陣後も党内に影響力を残すにはその選択肢しかない」