過去10年以上にわたって輸出額が右肩上がりとなっているジャパニーズウイスキー。世界的なブームとなり、全国各地で蒸溜所が続々と建設されている。
北陸で唯一のクラフト蒸溜所となる富山県の『三郎丸蒸留所』を任されているのは、日本酒を製造販売する若鶴酒造の5代目・稲垣貴彦氏である。同所が他と一線を画すのは蒸溜器が鍛造ではなく、世界に一つしかない鋳造であることだ。
寺院の鐘などを製作する梵鐘メーカー・老子製作所と共同で開発し、2019年に導入された高さ5メートルの蒸溜器の名は「ZEMON」。稲垣氏は狙いをこう語った。
「蒸溜時の熱伝導の効率が良く、蒸溜器の銅や錫が酒質をまろやかにします。地元の産業である高岡銅器の技術を使ってより味わい深いウイスキーを造り、ウイスキー界の新しいトレンドになれたら嬉しいですよね。この技術を独占するつもりはありません」
蒸溜所名の「三郎丸」は所在地に由来。熟成倉庫の外壁は、アイラ島の蒸溜所を模している。同社は2018年に糖化槽、2019年に蒸溜器をリニューアルしており、現地では時代ごとの味わいの変化をテイスティングできる
33歳と若く、独創性にあふれた稲垣氏をリーダーに、唯一無二の方法でピート香が強いウイスキーを生み出す三郎丸。ZEMONで蒸溜された原酒が熟成され、世に羽ばたくのも近未来の楽しみである。
撮影/太田真三
取材・文/柳川悠二
※週刊ポスト2021年2月12日号