軽自動車の販売台数でトップをひた走るホンダのNシリーズだが、その中でデザインもシンプルな「N-WGN(ワゴン)」は、どうも地味なイメージが拭えない。果たしてライバル車を出し抜く存在価値はどこにあるのか──。自動車ジャーナリストの井元康一郎氏が試乗レポートする。
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軽自動車のベストセラーモデルはホンダのスーパーハイトワゴン「N-BOX」。筆者は昨年、新型コロナウイルスの感染拡大が本格化する前N-BOXを試乗してみたが、乗ってみると静粛性は高いわ乗り心地は素晴らしいわ。何でホンダは「アコード」や「インサイト」をこういうふうに作らないんだろうと思うくらいの動的質感の高さに驚き、そのまま急きょ長距離ドライブに出かけてみたのだった。
N-BOXに乗ったことで俄に興味が出たのが、N-BOXより背が低く、スライドドアではなく普通のヒンジドアを持つ「N-WGN」だ。プラットフォームは第2世代N-BOXと同じで、お値段は同等装備のグレードの比較で20万円近く安い。
「これでN-BOXみたいな商品特性だったらもはや無敵のミニマムトランスポーターじゃないか」と思い、4000kmの旅に出かけてみた。
N-BOXより20万円安いワケ
テストドライブしたN-WGNのグレードは普及版の「L・Honda SENSING」。追加オプションなしの希望小売価格は10%消費税込みで136万4000円。試乗ルートは東京~鹿児島周遊。本州内は往復とも東海道、瀬戸内軽油。九州内は往路が熊本まわり、復路が大分まわり。総走行距離は4198km。
これでもかというくらい徹底的に乗り込んでみての印象だが、まず、スライドドアが不要ならN-BOXの20万円安で同等の味を得られるという見立てはさすがに甘かった。
N-WGNはN-BOXほど静かでもないし滑らかでもない。時速60kmまでの低中速域で路面が荒れている道路を走る時、N-BOXは深い凸凹以外はサスペンションの上下動幅が小さい軽自動車とは信じ難いくらい滑らかにその不整を吸収したが、N-WGNはゴトゴト感が強い。N-BOXに通じる良さを感じられる唯一のシーンは速度の高い自動車専用道路。静粛性はN-BOXに大きく劣るものの、乗り心地はN-BOXばりに滑らかになり、安定性も高かった。
室内はもちろんN-BOXよりは狭く、シートアレンジも貧弱である。全体的な質感も弱い。シートは機能的には問題ないが、デザインや縫製はいかにもバジェットカーという簡素なもの。ドアトリムやダッシュボードが樹脂成型なのは軽自動車やベーシックカーでは普通のことだが、N-WGNのそれは安さが強調されてしまうようなところがあったし、表面のテカりや感触もプラスチッキーそのものという感じだった。
100万円台半ばという価格帯で20万円の価格差は大きく、300万円vs280万円とはワケが違う。N-BOXの20万円安という価格は単に背丈、スライドドアの有無、シートアレンジ機構の差だけでなく、あらゆる部分を安く作ることで達成したのであろう。