昨年は新型コロナ対応のため、医療機関における「急を要さない手術」が減少したという。例えば兵庫県の加古川中央市民病院は、最初の緊急事態宣言下の昨年4、5月に“不要不急”の手術を抑制したことなどが影響し、昨年4~11月の収支が約9億円の赤字となった。「そもそも医師や病院は手術をしたがる傾向があります」と指摘するのは血液内科医の中村幸嗣さんだ。
「手術は診療報酬の点数が高く、外科医は手術で病気が治癒すると考えやすいため、病院や外科医は手術をしやすい傾向があります。高齢者の早期がんや弁膜症などはその適応が総合的に微妙でも、利益や経験を求める医師や病院が、患者に手術をすすめるケースも存在します」
注意すべきは、余計な手術によって患者の健康リスクが増す場合があることだ。『医者に殺されない47の心得』の著者で、医師の近藤誠さんはいう。
「休眠状態で分裂をやめているがん細胞が手術の刺激で目を覚まして、分裂・増殖を再開することがあります。営利や経験目的で不要な手術に踏み切った結果、がんが再発して死亡する確率が高くなるケースがあるのです」(近藤さん)
余計な手術が悪影響をもたらすのは、がん自体の悪化ばかりではない。
「貧血を含めて健康状態の悪い患者に手術をすると合併症を発症しやすくなります。そして貧血原因を取り除くため高齢者に手術をすると、手術をしなかった場合よりも免疫力を低下させ、かえって全身状態が手術前より悪化することもあります」(中村さん)
これから先、多剤併用や不要な手術が減れば、確実に死者は少なくなるだろう。しかし、不要な薬や手術をすすめられるケースが増加する恐れがある。近藤さんは「結局、医療はビジネスなんです」と語る。