古くは『ロミオとジュリエット』。そして『冬のソナタ』を経たいま、『愛の不時着』が大ブーム。“禁断の愛”を描く作品は、つねに人気となっている。そこで、作家・川奈まり子さんの視点を混じえ、日本社会を揺るがした“禁断の愛”を紹介する。
家柄の違いを乗り越えて
見合い結婚が大多数だったその昔。親が決めた許婚を振り切って、熱烈な愛に燃えた女性たちのそれぞれの決断──。
【柳原白蓮】
伯爵・柳原前光の次女に生まれた歌人・柳原白蓮(享年81)。NHK連続テレビ小説『花子とアン』で主人公の親友・葉山蓮子のモデルとなった彼女も情熱的な愛に生きた女性だった。
27才のときに25才年上の九州の炭鉱王・伊藤伝右衛門との縁談を経て結婚。「筑紫の女王」として注目されるも、年齢・身分・教養のいずれも不釣り合いな伯爵家と炭鉱王の政略結婚生活は必ずしも幸せなものとは言えなかった。
1921(大正10)年、当時、編集者として恋仲となっていた7才年下の宮崎龍介(享年78)と出奔。夫に送った「絶縁状」は新聞に大々的に取り上げられ、「白蓮事件」として騒がれた。その後、夫と離婚が成立し、宮崎と結婚。晩年まで添い遂げた。
「白蓮は知的で非常に意思の強い女性だったと思うんです。大正時代ですから、世間体を気にして離婚を躊躇する女性が多かったでしょうに、周囲に流されることなく、自立した道を選択した。絶縁状には『私は金力をもって女性の人格的尊厳を無視する貴方に永久の訣別を告げます』と記していますが、多分、炭鉱王の夫は短歌や文芸の話にあまり関心もなかったのでは? 白蓮にとっては自己を表現でき、価値観を共有できる相手が大切だったのでしょう」(川奈さん)