最終回の平均世帯視聴率18.4%(ビデオリサーチ調べ、関東地区)を記録し、有終の美を飾ったNHK大河ドラマ『麒麟がくる』。「多くの余韻を残した」という同ドラマについて、時代劇研究家でコラムニストのペリー荻野さんが振り返る。
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これまで主要人物の「ナレ死」はあったが、まさかの主役の「後日談死」!? しかも、三年後!と思ったら、ひょっとして死んでない!?ということで騒然となった『麒麟がくる』最終回。23日には、帰蝶(川口春奈)の語りで4部構成の総集編の放送が決定している。
光秀は生き延びて、108歳で亡くなるまで徳川幕府で家康・秀忠・家光三代の補佐をした天海僧正になったという伝説がある。「麒麟」でも光秀と家康は若いころからの知り合いで信頼し合う仲。最終回でも光秀は徳川方の忍び菊丸(岡村隆史)に家康への手紙を託している。最終回後、長谷川博己は「光秀は生き延びたんだと信じたい」「このあとどうやって光秀は江戸幕府をつくったのか」と語った。ドラマではアリの設定である。
振り返ってみると、「麒麟」は、最後の最後までいろいろな余韻を残した。一番の特長は、光秀が天下をとりたいとか、信長が憎いとか、私欲や感情ではなく、「大きな国」「平らかな世」といった手で触れることのできない理想を追い求めていたこと。想像上の生き物で手で触れられない「麒麟」は、それを象徴していた。
これまで戦国ドラマで伝説的に語られてきた場面をあえてはずしたことも大きな特長だ。たとえば、松永久秀(吉田鋼太郎)の最期は、天下の名物「平蜘蛛」を抱え、日本史上初めて「爆死」したと描かれることも多いが、このドラマでは炎上して完結。そもそも松永は下剋上の悪人とする作品も多い中、きまじめな光秀に世の中の表と裏を教える不良上司のように描いたことは面白かった。
また、「母の磔シーン」もなし。信長の命令で丹波攻めに苦闘した光秀により、人質に出された光秀の母は、信長の攻撃のために磔にされたといわれる。これは後年の伝承らしいが、丹波には「はりつけの松」の跡地があるという。その瞬間、母は怨みを込めて絶叫したか、それとも菩薩のような微笑みで運命を受け入れたか。「麒麟」で母を演じたのは石川さゆり。石川といえば、『天城越え』『飢餓海峡』など鬼気迫る熱唱で知られる。勝手に磔シーンを想像していたが、それはなかった。