海上自衛隊幹部学校が定期的に公刊する論文集『海幹校戦略研究』2011年の5月号には、「温暖化が進むと2037年の夏季には氷に閉ざされない(アイスフリーの)北極海が出現」し、北極海の戦略的意義を問うべしとの指摘がされている。今から約10年前の論文の一節だ。
人類の文明的生活の向上によるCO2排出量の増加が主な原因と言われる地球温暖化。これまでは、緑地の砂漠や、極氷融解による海面の上昇など環境面の“悪化”を呼ぶと啓蒙されてきた。
「しかし、そればかりではなく安全保障上の問題をはらんでいるんです。密かに、温暖化で氷が融けることを望んでいる国があります。それは、ロシアです」──そう語るのは、ロシアに詳しい佐藤優氏だ。かわぐちかいじ原作の漫画『空母いぶき GREAT GAME』単行本第3集発売を記念して、その舞台となるロシアと日本との関係について解説してくれた。北極海の氷が融けると彼の国は何を利するのか。
「ひとつは、厚い氷に覆われていて手が出せなかった地下資源を開発できることです。ロシアの北極海沿岸は天然ガスがザックザク出てくる。特にヤマル半島は宝庫で、石油でいう中東のクウェートやカタールみたいな場所になる可能性があります」
エネルギーの地軸が中東ベースからロシアベースへ? 石油から原子力へ、主力エネルギーの転換が一頓挫した現在、水素エネルギーなど次世代エネルギーの準備の前に、思わぬところでロシアの天然ガスがキャスティングボートを握るかもしれないのだ。
「もうひとつは、氷がなくなると北極海を大型船が安価で行き来できるようになる。新たな『北極海航路』が開発されます」
人類至上初の“北回り航路”。これは、ヨーロッパからアジアへの海上輸送のスタンダードを完全に変える(※図1参照)。