映画『すばらしき世界』が公開前から話題だ(2月11日全国公開。配給:ワーナー・ブラザース映画)。試写会に足を運んだファンからは、主演を務める俳優・役所広司(66)の演技に魅了されたという声も数多く寄せられている。40年以上のキャリアを誇り、数多くの映画賞を受賞してきた名優は、新作映画で一体どんな境地へと突き進んでいるのだろうか。同作のプロデューサーと、映画評論家の寺脇研氏に話を聞いた。
『すばらしき世界』は、『ゆれる』(2006)や『ディア・ドクター』(2009)、『夢売るふたり』(2012)、『永い言い訳』(2016)など数々の話題作を世に送り出してきた西川美和監督による5年ぶり6作目となる映画。これまでオリジナルの脚本を手がけてきた西川監督が初めて他者による小説を映画化した作品である。
原案となったのは小説家・佐木隆三による1990年のノンフィクション・ノベル『身分帳』。刑務所暮らしを経て人生を再びやり直そうとした男が、社会との軋轢に葛藤する様を描いた物語だ。映画では舞台を現代社会へと移し、人生の大半を獄中で過ごした主人公・三上正夫を役所広司が熱演。殺人犯という過去を持つ、ダークだが人間味あふれる役柄を見事に演じ切った。
本作で役所広司は、殺人犯という、世間一般から外れたアウトサイダーでありながら、日本の現代社会で暮らす一人の人間でもあるという、ある種の二面性を引き受けている。殺人犯に感情移入することはできないにしても、その人間らしい振る舞いに観客が自分自身の姿を垣間見ることはあるはずだ。『すばらしき世界』でプロデューサーを務めた西川朝子氏は、そんな主人公のリアリティに触れながら次のように述べる。
「『すばらしき世界』をご覧いただくと、主人公・三上という男について『こういう人っているなぁ』と思わずにいられなくなり、やがて彼に訪れる日常些細なできごとにハラハラしたり、笑ったり、一方で胸をかきむしられるような思いになったりするはずです。
役所広司さんの演技は、スクリーンに映し出されている作り物としてではなく、“そこに居る人”の人生のように私たちの目の前に立ち上がってくるのです。
本作で西川美和監督が描いたのは人生の大半を刑務所で過ごした後、今度こそやり直すと決意したひとの物語。三上の抱える、普通の暮らしを送りたいという切実な思いは、今の世の中、誰にも共通した願いのように思います。観終わった後、『すばらしき世界』というタイトルを思わず口にしたくなる映画になっていると思いますので、ぜひ映画をご覧になって、このタイトルの意味を感じてください」