刹那な恋路の行く末に
失望、病気、複雑な三角関係。八方ふさがりの状況に世を儚んだふたりを待っていたのは、激流の三途の川か──。
【太宰治】
作家の太宰治(享年38)が1948年、6月13日に東京・玉川上水で入水自殺したことは有名。このとき、太宰とともに亡くなったのが愛人の山崎富榮(享年28)だった。太宰は当時、妻との間に3児、愛人・太田静子(享年69)との間に1児がいる身で、富榮は美容師として働く傍ら、結核を患う太宰を看護し支え、秘書的な役割も担っていた。富榮の遺書には「女として生き女として死にとうございます」という一文があった。
「それまでにも何度も自殺未遂を繰り返していた太宰が最初に富榮に会ったときに『死ぬ気で恋愛してみないか』と言ったそうですが、そこにフラグが立っていた気がしますね。もしかしたら、彼女のなかのスイッチが入ってしまったというか。退廃的な作家の先生と“生きるか死ぬか”の激しい恋愛に落ちたいと思ってしまったのかもしれません。
太宰は愛人の静子に日記を書かせ、それを小説『斜陽』のネタに拝借したり、女性たちに愛を与える側でなく奪う側の存在だった。それでも、ありあまる才能に絶えず女性たちは魅了されていったのだと思います。同時代にいたら危険だったかも」(辛酸さん)
【プロフィール】
辛酸なめ子(しんさん・なめこ)/漫画家、コラムニスト。東京生まれ、埼玉育ち。武蔵野美術大学短期大学部デザイン科グラフィックデザイン専攻卒業。『女子校礼讃』(中公新書ラクレ)が好評発売中。
取材・文/加藤みのり イラスト/ドナ
※女性セブン2021年2月18・25日号