【著者インタビュー】中森明夫氏/『キャッシー』/文藝春秋/1800円+税
まずは装画のメラメラと黄色く輝く発光体のような、少女の後姿に引き込まれた。
「これは女優ののんさんが描き下ろしてくれたもので、こんな黄色だったのかって、著者の僕も驚きました。
主人公が超能力を発揮する前、世界が黄色く光って見えるというのが、かつてスティーブン・キング原作、ブライアン・デ・パルマ監督の映画『キャリー』(1976年)に感銘を受けた僕のアイデアだったんです。でも、小説では黄色は『黄色』と書くしかない。それをここまで精妙で複雑な黄色に描けてしまう彼女自身、闘っていて、のんさんは本当にこの黄色を見たんだなって」
アイドル評論家としても知られる中森明夫氏の最新小説、『キャッシー』である。生来のぼせ症で、よく鼻血を出しては揶揄われていた地方の小学生〈木屋橋莉奈〉は、幼い頃からその〈ちから〉に気づいていた。
小学3年生の時には、急に目の前が黄色く光り、思わず失禁してしまった彼女を〈おもらしキャッシー〉と皆が囃した次の瞬間、謎の大地震が教室を襲ったのだ。以来〈思念〉の操り方をも会得した彼女は、孤独の中でこう夢見るようになる。〈アイドルになりたい〉と。
キャリーと超能力と指原莉乃と──。10年前、あの大杉栄を現代に降臨させてみせた氏にとって(『アナーキー・イン・ザ・JP』)、この三題噺にも似た要素が今作の始点になったという。
「アイドルとは何か、興味のない人に説明するのって実は物凄く難しいんです。
正直、アイドルの多くは歌がうまいわけでも、美人なわけでもない。そんな売れる理由も努力の仕方もわからない中に売れる子と売れない子が出てくる。例えばAKBの総選挙で何度も1位に輝いた指原莉乃なんて、超能力者だとしか言い様がない。
目に見えない、人を動かす力の存在を感じたんですね。その力を描くには評論より物語がふさわしく、超能力と言えばやはり『キャリー』だと。少女が覚醒し、自分を虐げた世界もろとも破壊する時のパワーったらなかったし、既に倣うべき古典ですよね。
実は5年前、映画『この世界の片隅に』で声優に挑戦したのんさんと対談した時も彼女をキャリーに擬え、DVDを差し上げたご縁もあったんです。
まずアイドルと超能力を結び付けた。さらにはAKBが存在しないパラレルワールドを描いてみようと。ダニー・ボイル監督の映画『イエスタデイ』は、ビートルズの音楽が消えた世界を描いていました。ああ、面白い。発想が近いなって。現実のポップカルチャーを消したり変更したりすることで批評性が際立つんですね」