ライフ

著者・中森明夫氏に聞く アイドル評論の一人者が描く構想7年小説

中森明夫氏が新作を語る

中森明夫氏が新作を語る

【著者インタビュー】中森明夫氏/『キャッシー』/文藝春秋/1800円+税

 まずは装画のメラメラと黄色く輝く発光体のような、少女の後姿に引き込まれた。

「これは女優ののんさんが描き下ろしてくれたもので、こんな黄色だったのかって、著者の僕も驚きました。

 主人公が超能力を発揮する前、世界が黄色く光って見えるというのが、かつてスティーブン・キング原作、ブライアン・デ・パルマ監督の映画『キャリー』(1976年)に感銘を受けた僕のアイデアだったんです。でも、小説では黄色は『黄色』と書くしかない。それをここまで精妙で複雑な黄色に描けてしまう彼女自身、闘っていて、のんさんは本当にこの黄色を見たんだなって」

 アイドル評論家としても知られる中森明夫氏の最新小説、『キャッシー』である。生来のぼせ症で、よく鼻血を出しては揶揄われていた地方の小学生〈木屋橋莉奈〉は、幼い頃からその〈ちから〉に気づいていた。

 小学3年生の時には、急に目の前が黄色く光り、思わず失禁してしまった彼女を〈おもらしキャッシー〉と皆が囃した次の瞬間、謎の大地震が教室を襲ったのだ。以来〈思念〉の操り方をも会得した彼女は、孤独の中でこう夢見るようになる。〈アイドルになりたい〉と。

 キャリーと超能力と指原莉乃と──。10年前、あの大杉栄を現代に降臨させてみせた氏にとって(『アナーキー・イン・ザ・JP』)、この三題噺にも似た要素が今作の始点になったという。

「アイドルとは何か、興味のない人に説明するのって実は物凄く難しいんです。

 正直、アイドルの多くは歌がうまいわけでも、美人なわけでもない。そんな売れる理由も努力の仕方もわからない中に売れる子と売れない子が出てくる。例えばAKBの総選挙で何度も1位に輝いた指原莉乃なんて、超能力者だとしか言い様がない。

 目に見えない、人を動かす力の存在を感じたんですね。その力を描くには評論より物語がふさわしく、超能力と言えばやはり『キャリー』だと。少女が覚醒し、自分を虐げた世界もろとも破壊する時のパワーったらなかったし、既に倣うべき古典ですよね。

 実は5年前、映画『この世界の片隅に』で声優に挑戦したのんさんと対談した時も彼女をキャリーに擬え、DVDを差し上げたご縁もあったんです。

 まずアイドルと超能力を結び付けた。さらにはAKBが存在しないパラレルワールドを描いてみようと。ダニー・ボイル監督の映画『イエスタデイ』は、ビートルズの音楽が消えた世界を描いていました。ああ、面白い。発想が近いなって。現実のポップカルチャーを消したり変更したりすることで批評性が際立つんですね」

関連キーワード

関連記事

トピックス

屋根工事の足場。普通に生活していると屋根の上は直接、見られない。リフォーム詐欺にとっても狙いめ(写真提供/イメージマート)
《摘発相次ぐリフォーム詐欺》「おたくの屋根、危険ですよ」 作業着姿の男がしつこく屋根のリフォームをすすめたが玄関で住人に会ったとたんに帰った理由
NEWSポストセブン
人が多く行き交うターミナル駅とその周辺は「ぶつかり男」が出現する(写真提供/イメージマート)
《生態に意外な変化》混雑した駅などに出没する「ぶつかり男」が減少? インバウンドの女性客にぶつかるも逆に詰め寄られ、あわあわしながら去っていく目撃談も
NEWSポストセブン
現在はニューヨークで生活を送る眞子さん
「サイズ選びにはちょっと違和感が…」小室眞子さん、渡米前後のファッションに大きな変化“ゆったりすぎるコート”を選んだ心変わり
NEWSポストセブン
大の里、大谷
来場所綱取りの大関・大の里は「角界の大谷翔平」か やくみつる氏が説く「共通点は慎重で卒がないインタビュー。面白くないが、それでいい」
NEWSポストセブン
悠仁さまの通学手段はどうなるのか(時事通信フォト)
《悠仁さまが筑波大学に入学》宮内庁が購入予定の新公用車について「悠仁親王殿下の御用に供するためのものではありません」と全否定する事情
週刊ポスト
すき家がネズミ混入を認める(左・時事通信フォト、右・Instagramより 写真は当該の店舗ではありません)
味噌汁混入のネズミは「加熱されていない」とすき家が発表 カタラーゼ検査で調査 「ネズミは熱に敏感」とも説明
NEWSポストセブン
男性キャディの不倫相手のひとりとして報じられた川崎春花(時事通信フォト)
“トリプルボギー不倫”の女子プロ2人が並んで映ったポスターで関係者ザワザワ…「気が気じゃない」事態に
NEWSポストセブン
CM界でも特大ホームラン連発の大谷翔平
【CM界でも圧倒的な存在感の大谷翔平】「愛妻家」のイメージで安定感もアップ、家庭用品やベビー用品のCM出演にも期待
女性セブン
堀田陸容疑者(写真提供/うさぎ写真家uta)
《ウサギの島・虐殺公判》口に約7cmのハサミを挿入、「ポキ」と骨が折れる音も…25歳・虐待男のスマホに残っていた「残忍すぎる動画の中身」
NEWSポストセブン
船体の色と合わせて、ブルーのスーツで進水式に臨まれた(2025年3月、神奈川県横浜市 写真/JMPA)
愛子さま 海外のプリンセスたちからオファー殺到のなか、日本赤十字社で「渾身の初仕事」が完了 担当する情報誌が発行される
女性セブン
昨年不倫問題が報じられた柏原明日架(時事通信フォト)
【トリプルボギー不倫だけじゃない】不倫騒動相次ぐ女子ゴルフ 接点は「プロアマ」、ランキング下位選手にとってはスポンサーに自分を売り込む貴重な機会の側面も
週刊ポスト
ドバイの路上で重傷を負った状態で発見されたウクライナ国籍のインフルエンサーであるマリア・コバルチュク(20)さん
《ドバイの路上で脊椎が折れて血まみれで…》行方不明のウクライナ美女インフルエンサー(20)が発見、“危なすぎる人身売買パーティー”に参加か
NEWSポストセブン