談春の『厩火事』は夫婦喧嘩の理由が朝起きた亭主が「芋が食いたい」と言ったから。髪結いの仕事もほったらかして仲人宅に駆け込み「愛想が尽きた」と饒舌に喋りまくる女房おさきのハジケたキャラが光る爆笑編だ。「あの人に尽くしたい」とノロケるおさきへの仲人の「だったら帰って芋煮てやれよ!」は談春落語最高のフレーズのひとつ。
他にも「漬物がキムチ、鰻は田鰻、米はタイ米」の『鰻の幇間』や切れ味鋭い『首提灯』、純真な時次郎の天然キャラが素敵な『明烏』、談志が人生最後に演じた落語『蜘蛛駕籠』等、すべて「談春で聴きたい噺」。久々に談春の世界を堪能した。
【プロフィール】
広瀬和生(ひろせ・かずお)/1960年生まれ。東京大学工学部卒。音楽誌『BURRN!』編集長。1970年代からの落語ファンで、ほぼ毎日ナマの高座に接してきた。2020年1月に最新刊『21世紀落語史』(光文社新書)を出版するなど著書多数。
※週刊ポスト2021年2月19日号