音楽誌『BURRN!』編集長の広瀬和生氏は、1970年代からの落語ファンで、ほぼ毎日ナマの高座に接してきた。広瀬氏の週刊ポスト連載「落語の目利き」より、立川談春が開催した意外な「お友達」の面々との落語会についてお届けする。
* * *
1月6日から10日までの5日間、立川談春が新宿・紀伊國屋ホールで昼夜9公演の「春談春―お友達と共に―」なる落語会を開催した。“お友達”とは要するにゲストだが、談春が気安く話せる後輩や若手であることが“お友達”の真意。付き合いの古い柳家花緑(10日昼)や橘家文蔵(9日夜)等はともかく古今亭文菊(6日夜)や三遊亭萬橘(9日昼)あたりは「お友達!?」とプログラムを見てビックリしたに違いない。
この会は客席の間隔を空けておらず、夜は午後6時半開演。1月8日の緊急事態宣言で要請された「定員50%以下」「午後8時まで」に引っ掛かることが懸念されたが、政府が「1月7日までにチケット販売されたものは対象外」としたため、無事に全公演予定どおりの開催となった。
僕が観たのは7日昼(ゲスト三遊亭兼好)、7日夜(ゲスト柳家一琴・柳家小せん)、8日夜(ゲスト三遊亭遊雀)、9日夜(ゲスト文蔵)。談春は全公演ネタ出しで、7日昼は『鰻の幇間』『白井権八』、夜は『首提灯』『明烏』、8日夜は『蜘蛛駕籠』『御神酒徳利』、9日夜は『へっつい幽霊』『厩火事』だった。
幡随院長兵衛が「お若ぇの、お待ちなせぇ」と白井権八に声を掛ける鈴ヶ森直前のエピソードを語る立川談志の講釈ネタ『白井権八』は大阪の浪曲師広沢瓢右衛門直伝。それを唯一継承しているのが談春だ。
『御神酒徳利』は談春にしては珍しい演目で、12年前に一度聴いたことがあるだけ。しかもその時は小さんの『占い八百屋』だったが、今回は旅籠の番頭のほうで、サゲは三木助の「カカァ大明神のおかげ」。
三木助の『へっつい幽霊』を愛した談志は晩年これを好んで演じ、独自のサゲを披露した。談春は、以前は普通に「足は出さない」でサゲていたが、今回は勝負に負けた幽霊が消えたところに若旦那が来て「見てましたよ、半分ください」と言う談志のサゲを踏襲していた。