新型コロナウイルスの感染拡大によって、人が自由に会うことも簡単ではなくなってしまった。そんな世の中となったいま、大切な人を想う気持ちを伝える絵本が話題を呼んでいる。女優・室井滋さんが文を、絵本作家・長谷川義史さんが絵を描いた『会いたくて会いたくて』は発売するや、たちまち重版が決定した。
『会いたくて会いたくて』は、小学生の男の子・ケイちゃんと、離れて暮らす大好きなおばあちゃんの心の交流を描いた物語。室井さんが絵本の原作を書き始めたのは、昨春のことで、4月7日に緊急事態宣言が出され、ステイホームによって外出もままならなくなったなか、構想が生まれたという。
室井さんと長谷川さんは、室井さんの自伝的絵本『しげちゃん』シリーズでコンビを組むなど何冊も共同で絵本を作ってきた。さらに、『しげちゃん』の発売を記念して「しげちゃん一座」を結成し、以来、全国で絵本ライブを行っている。
一座はサックス・フルート・篠笛担当の岡淳さん、ピアノ・マジック担当の大友剛さんとの4人組で絵本の朗読やオリジナルの楽曲を中心に披露。長谷川さんを人形に見立てて室井さんが腹話術をするなど、楽しいステージは子供にも人気となっている。
これまでは年間30ステージほど行ってきたが、コロナ禍で開催できない日々が続いていた。それでも最近では、座席の間隔を空けるなど制約がありながらも徐々に開催できるようになってきたそうで、生の朗読でこの絵本を届けられる機会を室井さんも心待ちにしている。
「朗読を前提として絵本を書くとどうしても文字が多くなってしまうのだけど(苦笑)、この本は、ケイちゃんの絵日記を登場させたり、糸電話を通じて時間を遡ったりと、読み聞かせをしても文章量が気にならないと思います。絵本にあわせて、新しい曲も作る予定です。長谷川さんと私で歌詞を作って、大友さんと岡さんに曲を作ってもらって、絵本ライブでは朗読とあわせて皆さんに聴いてもらえたらいいなって」(室井さん)
一緒に住んでいるおじさんと糸電話で会話した
なぜおばあちゃんと孫の物語にしたのか。その理由を「私自身がすごくおばあちゃん子だったから」と室井さんは明かす。祖母とは大学進学で上京するまで同居していたという。
「私が生まれた当時はじいちゃんもばあちゃんもいて、賑やかな家庭で育ったんです。家で商売をやっていたので親戚や商店街の敬老会のご老人なども寄り集まって、身近にお年寄りがたくさんいました。まず年長者の話に耳を傾ける富山の土地柄もあって、お年寄りに対して特別な気持ちがありましたね。
ばあちゃんはとても物知りで、“しげちゃん、今年は百舌が高い枝にカエルを引っかけたからきっと大雪になるよ”なんて言うと、その通りになる。百舌が冬の保存食を木に突き刺す高さで降雪量が予想できるんだそうです。そんなふうに生活の知恵やしきたりなど、様々なことを私に教えてくれました。
ばあちゃんは私が東京へ出てきているときに老人ホームへ入って、そこで亡くなっているんですが、いまでもずっと一緒にいる感覚があるというか、ばあちゃんの温もりや匂い、やさしい声や笑い顔をすごくはっきり覚えているんです。だから、“会いたくても会えない大切な人”と考えたときにも、私の頭に真っ先に浮かんできたのは、ばあちゃんでした」