岩田といえば、三代目 J SOUL BROTHERS from EXILE TRIBEなどのパフォーマーとして絶大な人気を博しているが、この数年は俳優としても表現の幅を広げ、キャリアを更新し続けてきた。岩田にとって今作は、2018年に公開された『去年の冬、きみと別れ』以来の単独主演作。前作からの飛躍ぶりが今作で確認できることだろう。
昨年も、映画『AI崩壊』や『空に住む』という規模感もジャンルも異なるタイプの作品で主要な人物を演じて好評を得た。前者では冷徹な警察の指揮官を演じ、後者ではミステリアスな国民的スター俳優役に扮した。これらの作品を観て筆者が感じたのが、岩田は“何を考えているのか読めないキャラクター”にとても良くハマるということ。
思い返してみれば、『去年の冬、きみと別れ』のフリーライター役も、『Vision』(2018年)で演じた森に迷い込んだ若者役もそうだった。岩田本人の見た目から感じる爽やかなイメージとは異なり、ミステリアスで “何か裏のありそうな人物”を上手く演じてきた印象があるのだ。例えば、ドラマ『崖っぷちホテル!』(2018年/日本テレビ系)で副支配人役を演じた時のような明るい人物でも、その掴みどころのなさが魅力であった。
今作でも、岩田が演じている交渉屋・キダは、彼のハマり役の延長線上にある役柄と言えるが、この定着してきた路線から一歩飛び出し、“演じる力”が試されていたようにも思う。幼馴染みの3人が楽しげに過ごす高校時代のシーンでは、その見た目の若さや、普段から笑顔が印象的な岩田自身の資質が活かされているが、キダが交渉屋として暗躍するシーンでは、相手を恫喝するような場面も多々あり、裏社会の人間という役どころを巧みに演じていた。その目つきや声色には、観客席にいながらもつい気圧される迫力があった。今作での岩田には、これまでのような内に何かを秘める演技ではなく、プラスアルファで“発する”ことが求められているのだ。
こうした岩田の演技の振れ幅の妙が、本作をラブストーリーからサスペンスへ、さらにはヒューマンドラマへと、一本の映画の印象を大きく左右していることに繋がっているのだと感じた。本作での人々の高い満足度に、岩田は大きく貢献している。
【折田侑駿】
文筆家。1990年生まれ。映画や演劇、俳優、文学、服飾、酒場など幅広くカバーし、映画の劇場パンフレットに多数寄稿のほか、映画トーク番組「活弁シネマ倶楽部」ではMCを務めている。