緊急事態宣言により営業時間を短縮した飲食店への休業協力金は必要なことだろうが、一律で1日あたり6万円という価格設定に注目が集まっている。店舗の規模や立地によっては売上よりも多い店が少なくないのでは、という指摘も相次ぎ協力金バブルを疑うような声も上がっている。俳人で著作家の日野百草氏が食堂経営70代男性の困惑をレポートする。
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「いきなり6万円なんて雑ですよ、ウチみたいな小さいとこが1日6万円、ありえません」
東京多摩、私鉄沿線の各駅停車しか停まらない小さな駅で、木村亮助さん(70代、仮名)は食堂を経営している。食堂といってもいまは開店休業状態で、昼は近所の工員、夕方過ぎには馴染みの客が酒とつまみ程度に来る店だ。昔は繁盛していたが、大きな工場の移転と駅前の牛丼チェーンなどに押され、店の経営は半分趣味になっている。
「近所の小料理屋なんか休んでます。見たでしょう、どこもお休みです」
確かに。駅前から続く道すがら、小料理屋だけでなく、小さな飲食店のほとんどは「休業のお知らせ」の張り紙を思い思いのデザインで貼りつけてシャッターを下ろしていた。
「休んだほうがいいって判断でしょうね。この辺の個人(の飲食店)で一日の利益が6万なんてありえませんから。どの店とは言えませんが、夫婦で温泉巡りに行っちゃいましたよ」
筆者の注文したしょうが焼き定食を置くと、少し離れた席に腰掛けるマスク姿の木村さん。客は筆者しかいない。以前は飲みに来る馴染みや仕事帰りの独身者を見込んで夜9時までやっていたが、緊急事態宣言後は1時間早めて夜8時に閉めるという。
「うちも休んだっていいんですけど、好きで店をやってますからね。趣味みたいなもので」
木村さんは夫婦揃って年金受給者。店は古いが自己所有。奥さんの実家が土地持ちだったので駐車場も複数所有している。引退して悠々自適でもいいはずだが、料理を振る舞い、馴染みのお客と触れ合うことが大好きな木村さんはずっと店を続けてきた。そこに襲いかかったのがコロナ禍だ。
「去年の緊急事態宣言でも店は開けました。ほとんど知り合いしか来ませんでしたけど、仕事の人には助かったって感謝されましたね」