予想通り、トランプ前大統領の弾劾裁判は無罪評決が下された。共和党上院議員のうち7人が有罪票を入れて“造反”したが、残る43人の共和党議員は最後までトランプ氏に忠誠を尽くした。それは、2024年の次期大統領選挙までトランプ人気にすがろうとする共和党長老たちの安易な戦略でもある。
そもそも弾劾制度は事実上機能していない。下院の弾劾決議は過半数だから成立することもあるが、有罪か無罪かを決める上院の投票は3分の2の有罪票がなければ成立しないから、よほどの悪行をした大統領でなければ弾劾されない。それほどの犯罪行為があれば、そもそも弾劾裁判などではなく捜査当局によって訴追されるだろう。
今回の裁判でも、トランプ氏の行為が違法な暴動の扇動に当たるかどうかが審理されたというよりは、民主党と共和党が政治的な利益を守るために政治的な闘争をしただけのように見えた。そして無罪評決は、トランプ氏にとっては議会の免罪符を得たことになる。事実、評決後にトランプ氏はすぐ声明を出し、「アメリカを偉大にする運動は始まったばかりだ」と高らかに宣言した。今後も政治活動を続けていくという意欲の表明である。
今後もトランプ氏が“フロリダ・ホワイトハウス”から内政にも外交にも口を出し、自ら恩赦を与えて自由の身にしたスティーブン・バノン元首席戦略官や、娘婿のジャレッド・クシュナー元上級顧問ら優秀なスタッフに指令を出して共和党や過激派を動かそうとすれば、アメリカの迷走は長く続くことになる。
弾劾裁判の評決に先立つ2月10日には、政治資金を監視する非営利団体「責任ある政治センター(CRP)」がトランプ陣営の政治資金の支出を調べた結果を公表した。それによれば、議事堂に乱入した暴徒たちが参加した抗議デモを呼び掛けた中心人物たちに対し、事前にトランプ陣営から少なくとも350万ドル(約3億7000万円)のカネが渡っていたという。それ以外にも正体不明のダミー会社に流れた資金が数億ドルもあり、過激派にはもっと多くの資金が流れていた可能性も指摘した。それが事実なら、無罪放免されたトランプ氏が今後も影の支配者として共和党や過激派を主導することは極めて危険だ。なにしろトランプ陣営は選挙後に250億円以上の寄付を集めており、まだまだ資金は潤沢なのだ。
そんなトランプ氏を共和党が守ろうとしていることについて、同党のストラテジストを務めた人物は、「今の共和党にはトランプ氏に代わるリーダーがいない。2024年までに出てくるかもわからない」と、党の苦しい事情を明かしたが、筆者はそうは思わない。歴史を見ても、大統領選挙を目指す候補は、その活動のなかで変わっていくし、新しい指導者は、今は有権者から見えていないところから生まれるものだからだ。