大統領選挙の結果をめぐって、社会的に大きく分断されたアメリカ合衆国。新任したバイデン大統領のもとで、国力を立て直せるのか。経営コンサルタントの大前研一氏が、トランプ後遺症に悩まされる新政権のゆくえについて考察する。
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アメリカの分断は深刻だ。今回の大統領選でも、スイングステート(民主党と共和党の支持率が拮抗し、選挙の度に勝利政党が変動する州)以外は、シリコンバレーなどにハイテク産業が集積している西海岸の州と金融・メディカル・アカデミック関連産業が中心の東海岸の州は青(民主党)、ラストベルト(錆びついた工業地帯)をはじめとする衰退した製造業が多い中西部と南部の農業地帯の州は赤(共和党)にくっきり色分けされた。
言い換えれば、基本的に民主党はインテリ層と中間所得層、共和党はプア・ホワイト(貧しい白人)とごく少数の大金持ちの党になっているわけで、アメリカは従来の人種差別問題に加え、そういう地域格差によっても国民が分裂し、USA(ユナイテッド・ステーツ・オブ・アメリカ)ではなく、「DSA(デバイデッド・ステーツ・オブ・アメリカ)」になっているのだ。
所得格差は世界的に拡大しているが、とくにアメリカは著しい。年間平均所得は上位1%(約240万人)の富裕層が約1億5000万円で、下位50%の低所得層(約1億2000万人)が約190万円とされている。
トランプ前大統領は、そういう低所得層の人々の不満や鬱屈した潜在意識を呼び起こした。貿易赤字が拡大しているのは「中国が盗んでいるからだ」として中国からの輸入品に制裁関税を課し、雇用が増えないのは「メキシコからの不法移民が安い賃金で働いているからだ」としてメキシコとの国境に「壁」の建設を始めた。アメリカが抱えている問題のすべてを他国のせいにし、それを居丈高に非難・攻撃して相手から譲歩を引き出すことで人気を高めようとしたのである。
しかし彼は「世界の最適地で生産し、最も高く買ってくれるところで売る」というボーダレス経済の基本原理を全く理解していない。たとえば、いまスマートフォンやパソコン、複写機などのサプライチェーンは、ほぼ日本、中国、台湾、韓国の東アジア4か国で成り立っている。もし、その中でアメリカに雇用を持っていくとすれば最終組立工程だけであり、それは付加価値が極めて低い上にアメリカは人件費が高いから、企業は採算が合わなくなる。
ことほどさようにトランプ前大統領の政策は破茶滅茶かつ生産的でないため、在任中の4年間でアメリカの国力は大きく低下した。しかし、他国を叩いて留飲を下げることを覚えた人々の意識は、急には変わらない。この“トランプ後遺症”は実に根深いと思う。