女性の店員が店先に看板を出すと、待ちかねたように客が次々と店内に入る。揚げたてのカレーパンを前にニコニコと客さばきをするのは、東京・森下「カトレア」の5代目オーナー、中田豊隆さん(66)だ。
カレーパンを最初に作った店として紹介されることの多い同店。
「洋食が流行りはじめたときに、カレーとパンを合体させたらおいしいんじゃないかと祖父が考案したものです。揚げたのは、やはり人気のあったカツレツのイメージだと聞いています」(中田さん)
味は代々パン作りのチーフに受け継がれてきたもので「味を守ってくれるように」と中田さんは頼んできた。豚ひき肉とタマネギとニンジンが入ったカレールーを使い、辛さは抑えめにして誰もが食べられるようにしたという。実用新案登録されたのは1927年というものの、味はけっして古びておらず、つねに売り切れ状態がつづく。たっぷりのカレールーに薄いパン生地が特徴で、ボリュームもたっぷり。1個あれば1食分になるほど。
平日は1000個、休日は1500個作る。カレーパンは1日に3回店頭にならぶ。2時間ほど前から、前日に仕込んで冷ましてあったカレールーを、寝かしてあったパン種に入れる作業がはじまる。
カレーパンはルーが詰まっているいっぽう皮が薄いのが特徴で、そのためていねいに包まないと揚げるときに破裂するおそれがあるとお店では言う。カレーを詰めたあと、牛乳と卵を溶いた液にくぐらせ、パン粉をまぶし、そのあとフライヤーで揚げる。
出来たてのカレーパンを店頭で販売する5代目オーナーの中田さんのところには、カレーパンが店頭に並ぶのを待っていた客がひっきりなしにやってくる。熱々を買った人は店外に出るなりおいしそうに頬張っている。それを見て、お、うまそう、と買いに入る人も。まさに国民食だ。
●カトレア
『カレーパン』220円(税別)
【住所】東京都江東区森下1-6-10
【営業時間】7時~18時
【定休日】日曜日、月曜日
取材・文/小川フミオ 撮影/中庭愉生
※週刊ポスト2021年2月26日・3月5日号