コロナ危機に右往左往し、五輪組織委の大混乱にも知らぬ存ぜぬで逃げ回る菅政権の体たらくを見ていると、これが本当に大国のリーダーたちなのかと暗澹たる気持ちになる。森喜朗氏の古めかしい価値観を聞くと、「老害」と言いたくもなるが、年寄りだから、古い時代の人間だから「できない」と決めつけることもまた、「女性は話が長い」という偏見と同様、蔑視や差別のリスクをはらむ。
『週刊ポスト』(2月15日発売号)では、誰もが認める「昭和の傑物」が現代に生きていたならコロナ危機をどう乗り越えていくかを、当人を知る語り部のフィクションで考える特集を掲載している。田中角栄が総理大臣だったら……、松下幸之助が現役なら……、美空ひばりが存命なら……、といった計8人の架空のストーリーを紹介しているが、ここではその特別編として、9人目の傑物、ソニー創業者である盛田昭夫氏(1921-1999)が現代に健在なら何をし、どんなメッセージを発するか、経営コンサルタントの堀紘一氏に予想してもらった。
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盛田昭夫氏は昭和29年(1954年)にトランジスタラジオの開発に成功する。しかし、当時の日本でもソニーは今でいうベンチャー企業で信用がない。銀行もなかなか資金を出さず、ソニーのラジオを買おうという会社も少なかった。そこで盛田氏はそれをアメリカに持ち込んでヒットさせ、ソニーの名をアメリカで轟かせたのです。アメリカ人なら良いものは買う、そういう商売人としての確信があった。それが「偉大なる中小企業」としてのスピード感です。
盛田氏の真骨頂は、つまり「商売人」であることと「スピード感」の2つ。もし彼が存命なら、政府のワクチン調達の遅さを嘆いているでしょうね。OECD加盟37か国のなかで、ワクチン接種が始まっていないのは日本を含めて5か国だけです。先進国では最も対応が遅れている国のひとつになってしまった。
ワクチンの調達は国民の命を守ることですから、どの国も必死です。それだけ競争が激しい。日本はその競争に負けているわけで、それだけ交渉力が欠けている。盛田氏なら、例えばファイザーにこう言うのではないでしょうか。「おたくのワクチンを10億回分買おう」と。日本の人口は1億3000万人ですから、2回接種でも2億6000万回分でいい。それでも10億回分買うのが商売人の発想です。大口顧客は優遇されることを知っている。