不動産市場で不気味な崩壊の足音が聞こえ始めている。日本は「土地本位制」と言われるように、不動産は安全資産、効率の良い投資先と見なされ、資金調達の際の担保評価も他の資産より有利に査定されてきた。バブル経済は不動産投資によってもたらされ、バブル崩壊は不動産投資の規制によって引き起こされた。
『週刊ポスト』(2月15日発売号)では、不動産バブル崩壊によって、不動産資産を多く抱える一流企業が軒並みパニックに陥る恐怖のシナリオを報じている。すでに国税庁は2020年1月時点の路線価を、大阪の繁華街で減額補正することを発表し、大阪発のバブル崩壊が囁かれ始めている。
もちろん根底にあるのはコロナ不況だ。大坂では、近年は急拡大するインバウンド需要によって経済が支えられてきた。キタやミナミの一部は中国人をはじめとする外国人観光客によって潤い、それが地価を押し上げてきた。そのインバウンドがほぼゼロになったのだから、打撃が大きいのは当然だ。さらに、コロナで日本人も繁華街の利用が急減し、企業は一切の会食を控えているところが多い。
さらに、コロナに対応する「ニュー・ノーマル(新しい生活様式)」がバブル崩壊を加速するという。企業はリモートワークを急速に進め、本社機能を含めて「オフィス不要」の業務形態を模索している。出社が不要なら、社員もオフィスに近い都心のマンションをわざわざ買う必要はない。子育てや生活に便利な郊外の手頃な物件を求めるようになれば、地価が下落するなかでのドーナツ化現象という、これまでなかった動きが出るかもしれない。『不動産大暴落がはじまった』などの著書がある不動産ジャーナリストの榊淳司氏が言う。
「情報化社会が進化した現在、ホワイトカラーのほとんどの業務はオフィス以外の場所でもできることがコロナによって判明しました。リモートワークの普及は、これまで業務の効率化を軽視してきたビジネス界に、ほぼ強制的に合理化をもたらしたと言えます。人材派遣のパソナが本社を淡路島に移転すると決めたことが象徴するように、今後は都心の一等地にオフィスを構える企業は劇的に減るでしょう。その動きは、すでにオフィス空室率の上昇と賃料下落として統計にも明確に表れています」
本来やるべき合理化・効率化が進むのは悪いことではないし、リモートワークのような働き方の多様化も企業、ビジネスマン双方にとって良いことだ。だからこそ、この流れはコロナが収束しても変わらない。産業構造そのものの変化は受け入れるべきだが、気になるのは、その動きを見て日本の不動産市場を虎視眈々と狙っている外国資本の動向だ。経済アナリストの森永卓郎氏が指摘する。
「今の不動産バブルが崩壊すれば、都心の不動産価格は3分の1くらいまで下落する可能性があると見ていますが、90年代のように、それが東京や大阪から全国に波及することにはならないでしょう。なぜなら、今回のバブルでは地方はもともと地価が上がっていないからです。逆に、大阪と同様に東京も値下がりしておかしくないはずなのですが、それが下がっていない。それは外国人、とりわけ中国人の土地購入意欲が高いからです。狙われる業界としては鉄道会社などでしょう。コロナで乗客が減って経営が苦しい半面、超一等地の不動産を豊富に持っています。ただし、中国人がそれらを高値で買った後にバブル崩壊が本格化すれば、損するのは彼らになりますが」