昨年12月以来、繰り返しNEWSポストセブンでお伝えしてきた「トランプ・チャンネル」がいよいよ本格的に動き出すようである。弾劾裁判で無罪を勝ち取り、政治活動を継続すると宣言したトランプ前大統領にとっては計画通りの流れなのだろうが、反トランプを掲げてきたアメリカの主要メディアにとっては信じたくない話だったに違いない。筆者のリポートをアメリカ・メディアが細かくチェックしているとは思わないが、それを推測させる情報はあちこちにあったのに、これまで報じられてこなかったのは、それらメディアがトランプ氏の「隠居」を願っていたからかもしれない。
3大ネットワークのひとつNBCは、トランプ氏が保守系の新しいメディアを作る準備をしていると大きく報じている。ダウ・ジョーンズが発行している、ちょっとお高くとまった投資専門紙のバロンズも、これをスクープ扱いで伝えている。いずれも、トランプ氏が2024年の大統領選挙に向けて政治活動の拠点にするつもりだと推測しているが、NEWSポストセブンですでにお伝えした通り、この計画は単なる政治活動でもない。要するに、非常に効率のいい金儲けの手段なのだ。
トランプ氏の古い友人は、「彼は政治家ではない。ビジネスマンの考え方とやり方でしか動かない」と評している。トランプ氏にとっての政治とは、自分の国家観や思想信条を実現するためのものではない。権力の座に君臨し、なおかつ金儲けになることが理想だ。だから、大統領選挙が終わってからホワイトハウスを去るまでに急ピッチで寄付集めに奔走したのだ。集まった資金は公表ベースで260億円にものぼる。選挙で巨額の出費があり、さらに連戦連敗の不毛な裁判闘争にカネをつぎ込んできたが、それだけではない。本業の不動産ビジネスは不調で借金返済に追われているし、ビジネスやプライベートで山のような訴訟を抱えている。カネはいくらあっても足りないから、「トランプ」の看板で金集めができるうちに最大限集めておこうと考えたのだろう。
トランプ氏の考え方を端的に表しているのが「3月4日」である。トランプ信者の陰謀論集団QAnon(キューアノン)は、この日にトランプ氏が再び大統領に就くと信じており、それを祝い、支えるために再びワシントンに集まろうとしている。するとトランプ氏はどうしたか。その日と前日の「トランプ・インターナショナル・ホテル」の宿泊料金を2倍以上に引き上げたのである。もちろん、それでも信者たちは喜んで同ホテルを満室にするだろう。つまり、自分を支持する者たちは金儲けのカモなのである。選挙後にトランプ氏に巨額の寄付をしたある富豪は、弾劾裁判を見てショックを受け、トランプ氏に寄付の返還を求めているが、応じる気配はない。それがトランプ流の「政治活動」の正体なのだ。
トランプ氏にとって、テレビ経営は極めて利益率の高い商売だ。今の放送メディアはケーブルテレビが主流だが、ネットを使ったデジタル放送にすればコストは半分になると言われる。そして、物販はじめ様々な付帯サービスも簡単にできる。トランプ氏を「真の政治家」だと信じてカネを出す支持者を相手にすれば、ちょっと高めの有料チャンネルでも契約者はすぐに膨れ上がるはずだ。そこにトランプ氏が登場し、彼らが喜ぶ右翼的な発言を繰り返すだけで、カネはどんどん集まるだろう。不動産開発よりずっと手軽に大儲けができる。