現役最多のGI38勝(中央、地方、海外)を誇る角居勝彦調教師は、家業である天理教の仕事に就くため2021年2月で引退、角居厩舎は解散となる。調教師生活20年、厩務員として栗東トレセンに来てから34年、北海道のグランド牧場で初めて馬に触れてから40年。角居師は自身のホースマン人生の集大成として『さらば愛しき競馬』を上梓した。角居師によるカウントダウンコラム(全13回)、今回は自身最後の挑戦となるGIレースについて言及した。
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今週は東京開催最終週。今年初のGⅠ、フェブラリーステークスが行なわれます。
思えば長い間、多くのGⅠに出走させていただきました。JRAのGIはこれまで26勝していますが(注・現役2位)、出走したのはのべ204頭。2頭以上出走しているレースがあるので、これまでGⅠのファンファーレを155回もドキドキしながら聞いていたことになります。
初めてのGⅠは開業した2001年の阪神ジュベナイルフィリーズ。社台グループの会員に支えられたシェーンクライトという馬です。父は1996年の凱旋門賞を勝ったエリシオで、引退後種牡馬として輸入され、この世代が初年度産駒でした。
扱いが難しい馬でしたが、能力があって7月に小倉の新馬戦を勝ちました。角居厩舎としての開業5勝目ですが、それまでの4勝は引退された二分久男先生から受け継いだ馬ばかり。角居厩舎“生え抜き”として最初に勝ってくれたのがこの馬です。続くオープンのフェニックス賞も勝って賞金を積み上げ、暮れの2歳牝馬チャンピオン決定戦に駒を進めることができました。鞍上はデビュー6年目にしてすでにGⅠジョッキーとなっていた福永祐一騎手でしたが、休み明けということもあって18頭中10着でした。
次のG1もシェーンクライト。2年目でクラシック桜花賞に駒を進めることができましたが15着。その次のGⅠは同じ年のNHKマイルカップに金子真人オーナーのエンドレスデザートが出て18頭中18着。この2つのGⅠ、桜花賞とNHKマイルカップはその後も勝つことができませんでした。初めて勝ったのは2004年の菊花賞、GⅠとして5戦目のデルタブルースで8番人気でした。
オリンピックは参加することに意義があるかもしれませんが、競馬のGⅠは勝たなくては意味がない。もちろんどんなレースでも勝つことを目標していますが、デビュー戦は走らせてみないと分からないことも多いし、昇級初戦などは課題が見つかることも多い。また、故障などで長期休養明けだったりするととりあえず無事に、などと思うことはあります。しかしGIは万難を排してそれまでの課題を克服し、「次」を考えずギリギリまで仕上げます。だから勝たなくては意味がない。勝てる自信がなければ出走させることもありません。
角居厩舎として正真正銘最後のGⅠ、フェブラリーステークスにワイドファラオを出走させます。
この馬は芝でデビューして3戦目で勝ち上がった後、2019年のGⅡニュージーランドトロフィーに出走。ハナを切りながらも脚をタメる競馬で、直線では他馬を引き離して勝ちました。2002年以来17年ぶりに出走したNHKマイルカップでも9着ながらコンマ4秒差に頑張ってくれましたが、その走り方からダートでこそと思っており、1か月後にGⅢユニコーンステークスに出走させました。やはり逃げる形になり、直線で捕まりかけましたが、またひと伸びして勝ってくれました。