パソコン通信の時代から、ネット上だけで異性のふりをする、なかでも、女性のふりをする男性はいた。そこに、近年、進歩が目覚ましいAIや画像加工技術が加わったことで、変身願望が叶うとしたら、人は何をするか。ライターの森鷹久氏が、自然な女性化・男性化が手軽にできるアプリの沼にハマった人たちについてレポートする。
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「完全に女性だと思ってましたよ、私も何度か応援メッセを書き込んだんですが、それが中年男性だったとしたら……自分の軽率さを恨みます」
バイクが趣味という都内の大学院生・吉田コウキさん(仮名・25才)が落ち込んだ様子でこう話す。SNS上で数千のフォロワーを持つ美人女性ライダーの正体が、実は「中年男性」であったのではないか、そんな疑惑が持ち上がったからである。その人気アカウントを、吉田さんもフォローしていた。
「男性が女性顔に、女性なら男性顔に自分の顔を変えることができるアプリを使い、男性が女性のフリをして投稿していたのではないかと言われています。すごい美人で、でも乗っているバイクはすごく渋くて、そのギャップがたまりませんでした。こんなすてきな女性がいるんだと思ったんですがね、幻だったとは」(吉田さん)
わからない人には、何を言っているのか意味が不明だと思われるので、先に事情を説明しておこう。
スマホで撮影した顔を、男性化または女性化の加工ができるアプリが一昨年、SNSを中心に大流行したことを覚えているだろうか? AIフィルター技術を使ったこのアプリを使うと、顔写真にヒゲをはやしたり、髪型を変えたり、すっぴんにメイクをさせたり、老け顔、若返りなどの加工をすることができる。このアプリでできることは多岐に渡るが、なんといっても一番話題を呼んだのが、どんなオッサンでも美人風やかわいい風の女性へ(その逆も可能)変身できてしまうという、ユニークな機能。こうした機能は、昔の不気味なモンタージュ写真の如く、変身できたとしても不気味な様相のモノが出来上がるだけ、というのが相場だったが、ブームになったそれは、ほとんど違和感のない仕上がりになるのが特徴だった。つまり、加工された架空の人物写真なのに「本当に存在していそうな」人の写真を作ることができるのである。
先の美人女性ライダーが実在していたのか、本当は加工アプリによって生まれた元は男性だったのかは神のみぞ知る、ということで言及はしないが、ネット上で異性になりすまし、他者の反応を楽しむ行為というのはインターネットが一般的に普及する前から存在していたし、最近では「中の人」がおじさんであることを承知で架空の女性キャラクターを楽しむ人たちすらいる。ただ、近年の技術革新に乗っかり、単なる「遊び」が行き過ぎてしまい、暴走する人、犯罪に使おうという人々が出始めている。