背筋をピンと伸ばした“気をつけ”の姿勢こそが、「正しい姿勢」であると思っている人も多いだろう。しかし、必ずしもそうではないという。パーソナルトレーナーとして水泳や陸上競技など幅広くスポーツ選手の指導を行ってきた「うごきのクリニック」代表・後藤淳一さんはこう話す。
「胸を張って背筋を伸ばした“気をつけ”の姿勢は、見た目は確かに美しいのですが、実は、体に大きな負担をかけています。というのも、胸を張ろうと意識して反り腰になり、腰やひざなどを痛めてしまう人が多いのです。腹筋も常に伸びたままになってしまい、そのため、内臓も無理に引っ張り上げられた状態になってしまいます」
心身の不調の原因の多くが頸部の筋肉にあることを突き止め、年間1000人以上が治療を求めて来院する東京脳神経センター副所長で脳神経外科医の北條俊太郎さんは、背筋をピンと伸ばして座った姿勢は首の筋肉に負担をかけるため、悪い姿勢だと話す。
「いすの背もたれにもたれかからずに浅く腰かけ、背筋を伸ばして座るのは、一見、正しい姿勢に見えますが、体に負担がかかり、30分保つのもつらいはずです」(北條さん・以下同)
背もたれを使わないと、大きなボウリングの玉と同程度の6kg近くある頭の重さを首と肩で支えなければならない。そのうえ、長時間、背筋を伸ばし続ければ、立っているとき同様に筋肉を固まらせてしまう。
「特に体の中でも群を抜いて細い部位である首への負担はかなりのものがあります。首こりは緊張性頭痛を引き起こすほか、自律神経に悪影響を及ぼし、消化器機能や瞳孔機能の異常を起こしたり、うつ状態を引き起こすこともある。姿勢ひとつで全身に影響が及ぶのです」
それでは、どんな座り方であれば体にとって“いい姿勢”なのか。
「最初に、上半身を脱力して背もたれに背中をつけること。それによって背中が多少丸くなってもかまいません。しっかり背中を支えることができたら、次のステップとして視線を水平にすることで、首を垂直にしましょう。自然に真っ直ぐ前を見たときの視線が水平であれば、首は正しい位置に来ています」