音楽誌『BURRN!』編集長の広瀬和生氏は、1970年代からの落語ファンで、ほぼ毎日ナマの高座に接してきた。広瀬氏の週刊ポスト連載「落語の目利き」より、1994年に『化身』で第5回鮎川哲也賞を受賞し小説家デビューした作家・愛川晶による、寄席の世界を題材にした落語ミステリについてお届けする。
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推理作家の愛川晶には寄席の世界を題材にした落語ミステリが多く、最新作は文庫書き下ろし『芝浜天女』(中公文庫)。八代目林家正蔵を探偵とする「高座のホームズ」シリーズの第4弾で、解説は僕が書いた。
愛川の落語ミステリには他に「神田紅梅亭寄席物帳シリーズ」「神楽坂倶楽部シリーズ」がある。中でも「神田紅梅亭寄席物帳シリーズ」は彼の落語ミステリの原点ともいうべきもので、第一作品集『道具屋殺人事件』は2007年に刊行された。解説を書いたのは当時二ツ目の鈴々舎わか馬。今の柳家小せんである。
「神田紅梅亭寄席物帳シリーズ」第二作品集『芝浜謎噺』(2008年)所収の短編『野ざらし死体遺棄事件』では、後半を作り変えた『野ざらし』が語られる。この執筆に当たり、愛川は自分のアイディアが現実に通用するものか、実際の高座でわか馬に演じてもらった。以降わか馬は『夜鷹の野ざらし』としてこれを得意ネタとし、小せん襲名後も演じ続けている。1月の「春談春」にゲスト出演した時のネタもこれだった。
従来の『野ざらし』では骨に酒を掛けた八五郎の独り言を聞いた野だいこが祝儀目当てで長屋を訪れ「新朝というタイコです」と名乗り、「新町の太鼓? しまった、あれは馬の骨か」でサゲ。これは新町に太鼓の店があったこと、太鼓には馬の皮が用いられたことに掛けているが、多くの演者はこのサゲまで演らず、八五郎が釣り人たちに迷惑を掛けまくったところで終える。
だが『夜鷹の野ざらし』は後半にこそ意味がある。冒頭の「隣家の尾形清十郎を幽霊が訪れた」という話の謎解きがなされるからだ。